今回は「チタンの表面処理の種類」についての記事です。
チタンは鉄や鋼と同じように表面処理をすることができますが、チタンは耐食性が高く様々な色を付加できるのでデザイン性重視の表面処理と、さらに耐食性を向上させる表面処理であったり、チタンの欠点である耐摩耗性を向上させる表面処理があります。
今回の記事では、チタンに処理できる表面処理を簡単にまとめておこうと思います。
記事の目次
チタンの表面処理の種類
表面処理
一般的に、表面処理と言うと腐食防止のためにおこなうことが多いのですが、チタンは耐腐食性が高いのでステンレスと同じように表面処理をせず、そのままの状態で使用することが出来る材料です。
*チタン製のマフラー
ところがチタンの場合は、軽量で強度があり金属アレルギーも起こりにくいので「アクセサリー」「スポーツ用品」「レジャー用品」などの様々な分野で使用されることが多く、そのためデザイン性(見た目)を重視した意匠性表面処理を施すことがあります。表面処理はそれだけでなくチタンのデメリットである「焼付きやすい」と「条件によっては腐食する」の対策として、耐摩耗性と耐腐食性を向上させる表面処理もあります。
まとめると、チタンの表面処理は大きく分けて2つの方向性です
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意匠性表面処理と呼ばれるデザイン性重視の表面処理
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耐摩耗性や耐食性の機能面を重視した表面処理
それでは、チタンの表面処理について具体的にどのような種類があるのか?掘り下げてみようと思います
デザイン性重視の表面処理
デザイン重視の意匠性表面処理と呼ばれる表面処理には「チタン素地の表面仕上げ」と「チタンの着色」の2つに区別できます。
チタン素地の表面仕上げ
チタン素地の表面仕上げとは、材料として成形されたチタンをそのままの状態を生かして表面処理する方法です。
チタン素地の表面仕上げの種類
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鏡面
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酸洗
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真空焼鈍
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ブラスト
- ヘアライン
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エッチング
- エンボス加工
それでは、簡単に紹介していきます。
鏡面
鏡面とはツルツルでピカピカの見た目です。バフ研磨、化学研磨、電解研磨などがあります。
参考
*こちらの記事も参考になります。
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部品を平滑にする方法はバフ研磨と電解研磨【凹凸やバリや傷】
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酸洗
酸洗はチタン表面の汚れ、焼け、溶着したキリ粉などを強酸の硝フッ酸(硝酸とフッ酸の混合)を用いて化学的に除去する方法です。ツヤの無い銀色に仕上がります。
真空焼鈍
冷間圧延の後に真空焼き鈍しをする方法です。チタンは高温になると、化学反応によって雰囲気の物質と反応して変色などによって美観が悪くなります。そのため不活性ガスを用いた真空炉で焼鈍をすることで、外観の変化がすくなく冷間圧延(みがきと呼ばれる材料)した時の状態に仕上がります。
ブラスト
ブラスト処理はチタン表面に研磨剤粒子(金属、セラミック、ガラスなど)を投射して研磨、粗化する方法です。表面に細かな凹凸ができるのでザラザラとした質感に仕上がります。
ヘアライン
ヘアラインは研磨ベルト、研磨剤、砥石、を使用して一定方向に細かい筋目をつける仕上げ方法です。鏡面のような光沢がある仕上げとは違い、落ち着いた質感に仕上がります。
エッチング
エッチングは化学薬品を使って部分的に表面を腐食させることで、チタン表面に模様を付加する表面処理です。エッチングは見た目の表面処理だけでなく、半導体や基盤の製造工程でも行われる表面処理です。
エンボス加工
エンボス加工とは凹凸や模様が刻まれているエンボスロールをチタンに圧延(押し付ける)することで、チタンの表面の模様をつける加工です。独特なデザインや質感を付加できます。
チタンの着色
チタンの着色は、チタン表面の酸化皮膜の膜厚を成長させることで光の干渉作用を利用して色を変化させる方法と、チタンを電解によって金属酸化物の皮膜を形成させて着色する方法があり、着色の前処理として下地の表面仕上げやコーティングをすることで発色性が変わります。
代表的なチタンの着色方法は3つです
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大気酸化
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陽極酸化
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化学酸化
大気酸化
大気酸化は電気炉や炎で大気中にあるチタンを300℃以上に加熱して酸化皮膜を成長させる方法です。皮膜の厚さで色が変化するので、温度と加熱時間を調整して色を変化させます。この方法は色の種類が少なく色むらが発生し易いデメリットがありますが、皮膜の密着性は陽極酸化より優れています。
陽極酸化
陽極酸化には光の干渉によって色を変化させる方法と、皮膜を着色する方法があります。
光の干渉を利用する方法は、硫酸やリン酸の水溶液を電解液として直流電源装置(直流で電気を供給する装置)によって電解して酸化被膜を成長させて色を変化させます。この方法は、設定電圧によって膜厚をコントロールできるので、色の種類が多く均一に処理ができて再現性があります。
皮膜を着色する方法は、電解液に鉄、コバルト、クロムなどの金属塩を加えて電解することで、チタン表面に金属酸化物が析出させて着色皮膜となります。
このような陽極酸化の注意点は、下準備の脱脂と酸洗をしっかりおこなわないと色むらが発生し易く、皮膜の密着性は大気酸化に劣ると言うことです。
化学酸化
化学酸化は電気を使用せず化学反応のみで酸化被膜を成長させる方法です。この方法は、処理に時間がかかり、色の種類も少ないデメリットがありますが、大気酸化や陽極酸化ではできない黒色を着色できるメリットもあります。
機能面を重視した表面処理
耐摩耗性表面処理
チタンは熱伝導率が低いので部分的に高温になりやすく、高温になると活性になって化学反応しやすくなります。そのため、焼付きや溶着が起きやすいのですが、耐摩耗性の表面処理をすることで改善できます。
耐食性表面処理の種類はコレです
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窒化
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溶射
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湿式めっき
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乾式めっき
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肉盛り溶接
下記の資料でチタンの表面処理と耐摩耗性の関係性がわかります。
出典:出典:神戸製鋼所(KOBELCO) チタンの耐摩耗コーティング KENI COAT
窒化
窒化とは、チタンの表面に窒素(N)を拡散侵入(浸み込ませて内部で広がる)させることで「窒化化合物(FeN)=非常に硬い」を形成させて硬度が高くする熱処理のことです。
参考
*こちらの記事も参考になります。
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鋼を変形させずに硬くする方法【窒化処理と軟窒化処理】
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溶射
溶射はチタン表面に溶射材料を溶融、軟化させた粒子を吹き付けて皮膜を形成する方法です。溶射材料によって特性に違いがあり、アルミナ系、モリブデン、ニッケル、コバルトなどがあります。この方法はミリオーダーの厚い膜厚が可能ですが、めっきに比べると密着性が劣るとされています。
湿式めっき
めっきと言うと、鉄や鋼に処理するのが定番ですが、チタンにも処理が出来ます。耐摩耗には電気めっきの硬質クロムめっきや、無電解めっきの無電解Ni-Pめっきが有効です。
参考
*こちらの記事も参考になります。
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代表的なめっきの分類と種類【電気と無電解と溶融】
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乾式めっき
乾式めっきは水溶液を使用する湿式めっきとは違い、金属を蒸発させたりガス化させた気体中や真空中でチタン表面に金属皮膜を形成する方法です。PCD(物理蒸着)とCVD(化学蒸着)の2種類の方法があります。この方法は、処理に時間がかかるので生産性が悪く、高コストになってしまうデメリットがあります。
肉盛り溶接
肉盛り溶接は、耐摩耗性のある金属の溶接棒によって肉盛りする方法や、溶接のシールドガスに窒素や酸素を添加してチタン表面を硬度を向上させる方法です。大型部品に作用されることが多い耐摩耗対策です。
耐食性表面処理
チタンは非常に強力な酸化皮膜を形成しているので、耐食性が高いです。ですが、高温、高濃度の塩化物水溶液や非酸水溶液には弱く腐食してしまうことがあります。耐食性が高いチタン合金もありますが、価格が高価なので価格を抑えた表面処理が開発されています。
耐食性表面処理の種類はコレです
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大気酸化
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貴金属コーティング
大気酸化
大気酸化は溶接や炉で最高700℃程度で加熱して酸化処理する方法です。酸化被膜は温度が高いほど促進するので厚くなり、被膜の成長は酸化開始20分までが多く、その後は緩やかになるので長時間加熱しても皮膜が成長し続けることは無いです。
貴金属コーティング
貴金属コーティングは、酸化物や貴金属を塗布して高温で焼付けるコーティングです。部分的に処理することが可能なので、経済的です。
ポイントまとめ
それでは、チタンの表面処理の種類について重要なポイントをまとめておきます。
ポイント
- チタンの表面処理には「デザイン性重視の表面処理」と「機能面を重視した表面処理」がある
- デザイン重視の表面処理には、「チタン素地の表面仕上げ」と「チタンの着色」がある
- 機能面を重視した表面処理には「耐摩耗性表面処理」と「耐食性表面処理」がある
- チタンは耐食性が高く軽量で強度があり金属アレルギーも起こりにくが、表面処理をすることで、より価値を高めることが出来る金属です
以上4つのポイントです。
*私はチタン製のカップを使っています。アウトドアにおすすめです
参考
*この記事は「現場で生かす金属材料シリーズ チタン」著:日本チタン協会 を参考にしています。
関連記事:【材料/溶接/加工/表面処理】
以上です。