今回は「摩耗の問題と形態」についての記事です。
機械装置には可動部分(動くところ)がありますが、そのような部分は決まって摩耗が起きて故障や破損の原因となります。摩耗の対策を考えた場合、普通は潤滑剤を使用することが思いつくと思いますが、実際には、こまめに給油や交換を行っても摩耗を防ぐことは難しかったりします。
そこで今回の記事では、摩耗対策を考える基礎知識として摩耗の問題と形態について簡単にまとめておこうと思います。
記事の目次
摩耗の問題と種類
摩耗とは何か?
摩耗とは、個体の表面が摩擦によってすり減ったり損傷したりして損失することです。
部品の加工の観点から見れば、材料に穴を開けたり表面を削る摩耗は歓迎されるのですが、機械装置にとっての摩耗で考えると非常に厄介なことです。
上記の写真にある鉄粉は摩耗粒子です。摩耗粒子は固体表面から脱落した小片のことです。
摩耗の問題
摩耗と聞くと、あまり良いイメージが持てませんがその理由にはこんなことがあるためです。
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「摩耗は機械装置のトラブルの75%以上に関係している」と言われている
つまり、摩耗は、、、
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機械装置の故障の原因
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機械装置の寿命が短くなる原因
と言うことなんです。
私たちの身近な自動車で言えば、極論ですが摩耗がなければオイル交換やタイヤ交換は不要かもしれないし、車検や点検をする必要はないかもしれません。
でも、実際にはそんなことはあり得ないわけで、個体に摩擦が発生すれば摩耗は起きてしまいます。
なので、摩耗を起きにくくしたり、摩耗の進行が遅くなるような対策をする必要があるのですが、そのためには摩耗にはどのような形態があるのか?を知っておくと良いです。
参考
*潤滑油やグリースについてはこちらの記事をご覧ください
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潤滑剤の効果と種類【潤滑油とグリースの特徴を比べる】
続きを見る
摩耗条件に影響すること
一口に摩耗と言っても、摩耗の発生や進行の具合は摩擦条件によって大きく異なります。
摩耗条件に影響するのはコレです。
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力学因子・・・荷重、接触圧力、剛性など
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環境因子・・・温度、湿度、雰囲気、潤滑剤など
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材料因子・・・機械的特性、表面粗さ、表面形状など
機械装置が完成してから摩耗対策をするとなると、潤滑剤の給油や交換が主な対策となりますが、正直それでは不十分です。
それは上記にあるように、力学、環境、材料の様々なことが摩耗に影響しているからで、一番重要なのは設計段階で十分に考慮しておくことと言えます。
摩耗の形態
摩耗の形態は材料の特性に関係することと、機械装置のシステムと材料特性に関係することに分けて考えることができます。
材料の特性が関係する摩耗の形態は一般的に下記の4つに分類されます
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凝着摩耗
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アブレシブ摩耗
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腐食摩耗
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疲労摩耗
機械装置のシステムと材料特性に関係する摩耗の形態にはこのようなことがあります。
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フレッチング摩耗
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エロージョン
これらの摩耗を抑制するためには、耐摩耗性の材料選定や摩耗を考慮した機械装置のシステムを検討することが必要と言えるでしょう。
摩耗の形態と対策を簡単にまとめ
凝着摩耗
凝着摩耗とは、2個体間の接触面の凝着部(しっかり付着した状態)に、摩擦運動によってせん断力を与えると凝着部が破壊され摩耗粒子(個体の破片)が発生する現象です。
こんな材料を選定するとよい
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高剛性
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高温強度
アブレシブ摩耗
アブレシブ摩耗とは、個体の接触面に摩擦を与えると、硬い突起が柔らかい材料の表面を削る摩耗現象です。硬度差のある材料同士や硬い粒子が混入して摩擦すると発生し易くなります。
こんな材料を選定するとよい
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高硬度
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高じん性
腐食摩耗
腐食摩耗とは、高温や腐食性環境の摩擦面で化学反応によって発生する摩耗現象です。化学的に安定した材料を使用すると発生しにくくなります。
こんな材料を選定するとよい
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化学的安定性
疲労摩耗
疲労摩耗とは、固体表面が摩擦の繰り返しによって硬化(加工硬化)し、その後疲労によってクラックが発生し剥離することで摩耗粒子が発生する現象です。クラック(き裂)が発生しにくい均質性の高い材料を使用すると発生しにくくなります。
こんな材料を選定するとよい
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均質性
フレッチング摩耗
フレッチング摩耗とは、接触する2個体間に微小な滑りが繰り返されることで摩耗粒子を伴う損傷が発生する現象です。凝着摩耗、アブレシブ摩耗、腐食摩耗、疲労摩耗のすべてが関わる摩耗とされています。
例えば、軸と軸受け間でしめしろが少なかったり振動が発生するような、材料特性だけでなく構造や精度が関係した状況で起きます。
このよう対策が考えられます
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粘度の高い潤滑剤を使用する
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すき間を狭くしたり、はめ合いをきつくする
参考
*フレッチング摩耗の破壊事例はこちらの記事をご覧ください。
エロージョン
エロージョンとは、個体や流体が材料表面に繰り返し衝突したり流動することで発生する損傷現象で、材料の耐摩耗性だけでなく、機械的な改善が必要です。
エロージョンには発生現象によって主に下記の4つに分類されます。
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個体粒子によるエロージョン・・・硬い粒子を含む流体が固体表面に衝突したときに発生する
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流体によるエロージョン・・・速度が速い流体が固体表面に衝突すると塑性変形が起きて摩耗する
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スパークエロージョン・・・固体の接触面に電位差が生じると電流が発生し固体表面が電食する
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キャビテーションエロージョン・・・液体の中で気泡が発生し消滅すると、高い圧力を生じるため個体を損傷される
摩耗の問題と形態のポイントまとめ
それでは、摩耗の問題と形態について重要なポイントをまとめておきます。
ポイント
- 摩耗とは、個体の表面が摩擦によってすり減ったり損傷したりして損失すること
- 「摩耗は機械装置のトラブルの75%以上に関係している」と言われている
- 摩耗条件は、力学因子、環境因子、材料因子の3つが関係している
- 摩耗の形態は材料の特性に関係することと、機械装置のシステムと材料特性に関係することがある
- 摩耗の対策は、設計段階で十分に考慮しないと改善はできない
以上5つのポイントが大切です。参考にしてください。
参考文献:【初めてのトライボロジー 著:佐々木信也・他 出版:講談社】
*トライボロジーに関するおすすめの本はこちら
関連記事:【材料/溶接/加工/表面処理】
以上です。