今回は「鋼を変形させずに硬くする方法」についての記事です。
鋼を硬くする方法に浸炭焼入れがありますが、それ以外にも窒化処理や軟窒化処理と呼ばれる窒素を鋼に拡散侵入させて硬度を高くする方法があります。
しかしながら、私は機械装置の組立を生業にしていますが、浸炭焼入れされた部品を扱うことがあっても窒化処理された部品を扱ったことがありません。
そこで今回の記事では、窒化処理についての基礎情報をまとめておこうと思います。
金属を変形させずに硬くする方法
窒化処理とは
窒化とは、鋼の表面に窒素(N)を拡散侵入(浸み込ませて内部で広がる)させることで「窒化化合物(FeN)=非常に硬い」を形成させて硬度が高くする熱処理のことです。
また、窒化には鋼に窒素(N)を拡散侵入させる窒化処理と、窒素(N)&炭素(C)を拡散侵入させる軟窒化処理があります。
このような窒化は処理後の変形や寸法変化が少ないうえに硬度も高いので、精密さ維持しつつ鋼を硬くできる処理として普及しています。
クランクシャフト
エンジンの部品には窒化処理が施されていることが多いようです。
写真はエンジンのクランクシャフトです。
特徴
窒化処理の方法や処理の種類はいろいろとありますが、特徴と欠点をまとめるとこのようになります。
特徴
- 耐食性の向上
- 滑り性の向上
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耐摩耗性の向上
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寸法変化が少ない
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軽荷重の用途に向いている
- 焼入れ焼き戻しの必要がない
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低い温度(550℃前後)で処理するので材料が変形しにくい
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窒素が侵入すると残留応力が大きくなるため耐疲労性が高い
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約500℃まで硬さが低下しない耐熱性がある(浸炭より良好)
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Al、Cr、Moが含まれている鋼に窒化すると硬度が1000HVから1200HVになる
欠点
- 硬化層が浅いので重荷重には不向き
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硬度が高いため窒化処理後の加工が難しい
- 窒化処理は処理時間が長い(軟窒化は短い)
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親和性が強い元素を含有した鋼を使用する必要がある
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処理後に加工が必要な部分には窒化防止剤を塗布しておく
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ステンレスに窒化すると耐摩耗性は向上するが耐食性が低下する
- 処理時間や材料の種類や炉の雰囲気ガスが合っていないと硬さ不足になる
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窒化層(硬化層)が0.1mm以下~0.3mm以下で浅い。浸炭焼入れは1mm以上の深さが可能
窒素と親和性が強い元素
窒化処理には親和性が強い元素が必要なのですが、具体的にどのような元素が作用するのかまとめておきます。
「窒化処理に必要な元素=窒素と親和性が良い元素」はコレです
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C(炭素)・・・多いと窒素の拡散を妨げるが、少ないともろい窒化物となる
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AI(アルミニウム)・・・窒素とAlN化合物を形成する。最も高度を高める元素でHv1200となる
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Cr(クロム)・・・焼入れ性が向上することで、窒化層が深くなる
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Mo(モリブデン)・・・焼入れ性が向上し、窒化層の安定化に役立つ
窒化の種類
窒化の処理には多くの種類がありますが、代表的な窒化の方法を簡単に紹介しておきます。
浸硫窒化
硫化窒化は、炉内の雰囲気ガスにアンモニア(NH3)ガスと浸硫性ガスを使用することで、炭素(C)と窒素(N)と硫黄(S)を侵入拡散させる処理です。
塩浴窒化
塩浴窒化とは、シアン化ナトリウム(NaCN)やシアン化カリウム(KCN)などの青酸塩に鋼を漬けて窒化処理します。
ガス窒化
ガス窒化とは、炉内の雰囲気ガスがアンモニア(NH3)ガスで、加熱するとアンモニアガスは鋼と反応して窒素と水素に分解され、窒素が鋼に拡散侵入して窒化物を形成する処理です。
ガス軟窒化
ガス軟窒化法とは、炉内の雰囲気ガスを浸炭性ガスである一酸化炭素(CO)ガスと窒化性ガスであるアンモニア(NH3)ガスの混合ガスを使用すること炭素(C)と窒素(N)を拡散侵入させる処理です。
プラズマ窒化(イオン窒化)
プラズマ窒化とは、低真空の炉内に窒素と水素の混合ガスを導入し、炉内を陽極、材料を陰極としてグローを放電を発生させることで窒素イオンが発生し窒化処理をします。
窒化処理と軟窒化処理のポイントまとめ
それでは、窒化処理と軟窒化処理について重要なポイントをまとめておきます。
ポイント
- 窒化とは、鋼の表面に窒素(N)を拡散侵入(浸み込ませて内部で広がる)させることで「窒化化合物(FeN)=非常に硬い」を形成させて硬度が高くする熱処理のこと
- 窒化には鋼に窒素(N)を拡散侵入させる窒化処理と、窒素(N)&炭素(C)を拡散侵入させる軟窒化処理がある
- 主な長所は、「処理温度が低いので変形や寸法変化がすくない」「硬度が非常に高い」
- 主な欠点は、「硬化層が浅いので重荷重には不向き」「硬度が高いため窒化処理後の加工が難しい」「ステンレスに窒化すると耐摩耗性は向上するが耐食性が低下する」が挙げられる
以上4つのポイントが大切です。参考にしてください。
参考
*浸炭処理についてはこちらの記事をご覧ください
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低炭素鋼には浸炭焼入れや浸炭窒化焼入れをする【低炭素鋼】
続きを見る
*熱処理に関して参考になる書籍はこちらです。
関連記事:【材料/溶接/加工/表面処理】
以上です。