今回は「チタンの耐食性の特徴」についての記事です。
チタンは一般的に、アクセサリーやレジャー用品、スポーツ用品に使用されていることが多いのですが、工業業界では耐食性が高い金属として知られており、薬品や海水などの金属を腐食させる環境で使用されることが多い材料です。そこで、今回の記事ではチタンの耐食性に関わる基本的な情報をまとめておこうと思います。
記事の目次
チタンは塩素に強い
チタンの耐食性の特徴
一般に耐食性材料といえばステンレスが思い浮かびますが、実際にはチタンがステンレス(特にSUS304)を上回る耐食性を持っています。
下記の資料では、チタン、SUS304、ハステロイの耐食性を比較することで、チタンの耐食性が分かります。
この資料は、チタンが腐食に強い環境で他の材料よりも優れた選択であることを示唆しています。
出典:日本チタン協会 他金属材料との耐食性比較
補足
・18-8 ステンレス鋼とはSUS304のこと
・ハステロイは、耐食性及び耐熱性に優れたニッケル合金
・NDとは検出限界以下の意味。データが検出限界より小さいので分析できない
以前経験したのですが、塩素雰囲気で三価クロムめっきを施した鋼製部品を使用した際、1か月も経たないうちにに表面が白く濁り錆が発生したことがありました。
それ以外にも、黒染め処理を施した部品は1週間で錆び始め、1か月で全面的な腐食が見られました。それ以来、塩素雰囲気ではチタンの使用に切り替えたのですが腐食が発生しないため、塩化物に対するチタンの優れた耐性を個人的に感じています。
酸化性の酸に強く、非酸化性の酸に弱く、塩化物イオンに強い
それではチタンの耐食性について、まずはざっくりまとめてみます。
チタンの基本となる耐食性の特徴はコレです
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酸化性の酸に強い
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非酸化性の酸に弱い
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塩化物イオンに強い
- 低温、低濃度のアルカリ性には強い
酸化とは物質が酸素と化合して酸化物になる反応のことで、酸化性の酸とは酸化力がある酸のこと、その逆に、非酸化性の酸とは酸化力を持たない酸のことです。塩化物イオンは塩化物が水に溶けて生成され、不働態皮膜を不安定にする特性があります。
出典:神戸製鋼所(KOBELCO) 耐食領域
*AKOT(エイコット)とはTi-0.4Ni-0.015Pd-0.025Ru-0.14Crの耐食チタン合金です
酸化性の酸
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硝酸
- 王水
非酸化性の酸
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塩酸
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硫酸
- 燐酸(リン酸)
- 弗化水素(フッ化水素)
塩化物
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塩化第二鉄
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塩化第二胴
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塩化ナトリウム
アルカリ性
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アンモニア
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苛性ソーダ
チタンは非常に活性(化学反応が起こりやすい)な性質なので、表面は酸化しやすく、それによって不働態皮膜と呼ばれるチタン酸化物の皮膜が形成されています。この不働態皮膜は腐食を抑制し、チタンを保護します。
そのため酸化性の酸には腐食せず強い耐食性があり、酸化力のない非酸化性の酸に対しては「高温」「高濃度」の条件下で特に腐食し易くなります。また、チタンの不働態皮膜はステンレスの不働態皮膜よりも非常に安定していて、塩化物イオンにも耐食性があるので海水や塩素環境で使用されることが多いです。ただ、高温、高濃度の塩化物イオンであったり、局部的に塩化物イオンの濃度が高いと腐食することがあります。
アルカリ性に対しては、希薄アルカリ水溶液にたいしては耐食性がありますが、「高温」「高濃度」の条件下のアルカリ水溶液では腐食しやすくなり、場合によってはステンレスよりも腐食することがあります。また、酢酸を代表とする多くの有機酸に対しては耐食性があります。
チタンの耐食性を深掘りする
チタンと異種金属接触腐食
チタンは電位が高い金属(貴金属)なので、チタン以外の金属を組合わせると相手側が腐食します。
これは異種金属接触腐食(ガルバニック腐食)と呼ばれる現象で、水溶液中であったり湿度が高い環境などの電気が流れる状況下で電位の異なる金属を接触させると電池が形成されるため、電位の低い金属が溶け出し腐食し、電子のやり取りが起きることで、電位差が大きいほど腐食しやすい状況になります。
例えば、水溶液中で電位が低いアルミニウムをチタン接触させる、アルミニウムの腐食が促進される場合があります。なので、どのような金属であっても基本は同種の金属の組合せとし、もし腐食が発生しそうな組合わせは絶縁材を間に入れて絶縁処理をして組合わせる方法としましょう。
出典:神戸製鋼所(KOBELCO) 建材用チタンの特性
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参考
*異種金属接触腐食についてはこちらの記事をご覧ください。
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異種金属接触腐食やガルバニック腐食【イオン化傾向と金属の腐食】
続きを見る
チタンはすき間腐食を生じることがある
耐食性が優れているチタンですが、約80℃以上の高温で高濃度の塩化物水溶液の中では、フランジ、ボルト、部品の合わせ面、などにわずかなすき間があると「すき間腐食」が起きる可能性があります。
すきま腐食とは、同金属、金属と非金属の0.01mm単位のわずかな隙間から0.1mm単位の隙間で起きる局部腐食です。すきまに水や液体が入り込み停滞すると酸素濃度が低くなり、金属の被膜が不安定になったり、外部(すきまの外の水)の酸素濃度よりも、すきまの酸素濃度が低くなるので酸素濃度の差が生じて電池が形成されて腐食が起きます。
下記の資料を見ると分かるように、チタンはステンレスよりもすき間腐食が発生しにくいのですが、高温高濃度になると発生し易くなります。
出典:神戸製鋼所(KOBELCO) 耐食領域
*AKOT(エイコット)とはTi-0.4Ni-0.015Pd-0.025Ru-0.14Crの耐食チタン合金です
参考
孔食とは、孔の腐食が起きる現象で、局部腐食です。耐食性の高い不動態被膜の一部の被膜がなくなったり不安定になることで、その部分に孔の腐食がおきる現象です。
すき間腐食と違いチタンが孔食になることは「ほぼない」のですが、高温高圧のBr-(臭化物イオン)の環境ではまれに発生することがあるようです。
ガス環境では腐食することがある
チタンは乾燥塩素ガスの雰囲気では常温でも侵されますが、高温になると激しく反応し発火することがります。その逆に、0.2%以上の微量の水分が含まれている湿潤塩素ガスでは反応しません。
チタンとカーボンは相性がいい
近年、航空機産業をはじめとして新素材のカーボンと呼ばれる「炭素繊維強化プラスチック」である「CFRP」の導入が盛んですが、CFRPはチタンとの相性が良いので組合わせて使用されます。
カーボン(CFRP)とチタンの組合せのメリット
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異種金属接触腐食が起きない
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CFRPとチタンは熱膨張が少ない
CFRPは電気をよく通し、電位も高いのでCFRPよりも電位が低い金属と組合わせると異種金属接触腐食によって金属側が腐食することがありますが、チタンの場合は腐食することがないので相性が良いです。
CFRPは一体成形で製作ができて、耐食性であり軽量で疲労強度に優れていますが、構造物のすべてをCFRPにするわけではなく金属部品と組合せて使用したり、部品の組立(接合)にはねじやリベットを使用します。そのような場合に問題になるのが熱膨張で、熱膨張に差があると接合部や組合せ部に緩みやひずみが発生して欠陥や故障の原因になってしまうのです。ところが、CFRPもチタンもお互いに熱膨張が少ない同士なので、そのような心配が必要ないわけです。
チタンの耐食性を向上させる
チタンを腐食させにくくする方法
チタンの耐食性が優れていると言っても、状況、環境によっては腐食が発生してしまうので、耐食性を向上させる方法を知っておくといいです。
チタンを腐食させにくくする方法
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耐食性の表面処理を施す
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耐食チタン合金を使用する
それではこの2つをもう少しまとめておきます。
耐食性の表面処理を施す
チタンの耐食性を向上させるために、表面処理をする方法があります。
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大気酸化
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貴金属コーティング
大気酸化は、チタン表面の不働態皮膜であるチタン酸化物を溶接や炉で最高700℃程度で加熱することで積極的に成長させて、膜厚を厚くすることで耐食性を向上させる方法です。加熱温度は400℃以下では膜厚が薄く耐食性の効果が低く、700℃以上だと酸化しすぎて硬くてもろくなるようです。
貴金属コーティングは、酸化物の酸化パラジウム(PdO)や二酸化ルテニウム(RuO2)、貴金属のパラジウム(Pd)やルテニウム(Ru)などをチタンに塗布して高温で約付け処理するコーティングです。部分的に処理することが可能なので経済的です。
参考
*チタンの表面処理についてはこちらの記事をご覧ください。
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チタンの表面処理の種類まとめ【耐摩耗性と耐腐食性を向上させる】
続きを見る
耐食チタン合金を使用する
純チタンの耐食性を向上さるために、純チタンに貴金属元素を添加した耐食チタン合金があります。
代表的な耐食チタン合金に白金族元素のパラジウム(Pd)を添加したチタンパラジウム合金(Ti-0.15Pd)があり、非酸化性の酸に対する耐食性の向上、高温高濃度の塩化物イオンに対するすき間腐食が発生しにくくなります。
ただ、パラジウムは非常に高価である欠点があるので、低コストな耐食チタン合金の研究開発がされています。
例えば、このような低コストな耐食チタン合金があります
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耐食チタン合金 AKOT 【Ti-0.4Ni-0.015Pd-0.025Ru-0.14Cr】
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高耐食性チタン合金 TICOREX 【Ti-0.05%Ru-0.5%Ni合 金】
耐食チタン合金を検討する場合は、チタンパラジウム合金以外にもこのような材料も視野に入れて検討すると堅実的です。
ポイントまとめ
それでは、チタンの耐食性について重要なポイントをまとめておきます。
ポイント
- チタンは「酸化性の酸に強く」「非酸化性の酸に弱く」「塩化物イオンに強い」特徴がある
- ステンレスよりも耐食性に優れているが、使用環境によっては腐食することがある
- 耐食性向上には表面処理をするか、耐食チタン合金を使用する方法があります
以上3つのポイントです。
参考
*こちらの記事も参考になります。
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腐食のカギは金属の安定【腐食と錆びの形態と種類】
続きを見る
関連記事:【材料/溶接/加工/表面処理】
以上です。