今回は「MP情報とコミュ力アップで不具合のない機械をつくる」についての記事です。
私は長年、機械装置の組立や現場工事をしてきて「機械の不具合」が一向に無くならないことに落胆しています。「またか」って指摘が頻繁にある割に、改善されてきていないのです。
なぜか?この点をよく考えるのですが、今のところの答えとしては「MP情報を確実に設計に展開する」「顧客と設計のコミュニケーション充実」が欠かせないのではないかと思っています。
そこで今回の記事では、不具合のない機械をつくるために必要なことをまとめておこうと思います。
記事の目次
設計と不具合の関係
仕様書を守るだけでは不完全です
設計者が一番注目することは「顧客の要求=仕様書に記載されていること」です。ものすごく当たり前なことですよね。ただ現実には、仕様を守るだけでは不完全と言えます。
仕様を守るだけでは不完全な理由
- 顧客に「なんか違う、これは不具合だから直して」と指摘される
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実際に動かしてみたら稼働に支障をきたす
こんなこと、よくありませんか?
【顧客に「なんか違う、これは不具合だから直して」と指摘される】の原因は、「機械を使う側」と「機械を作る側」の感覚差があるためです。機械を使う側は、普段の仕事で日常的に機械を使ってモノづくりをしているので「この機能は機械として当然、当たり前」って思っていることが多いので、仕様書に盛り込まれない要件が発生してしまうわけです。
【実際に動かしてみたら稼働に支障をきたす】の原因は、仕様書に気を取られすぎて「実用的な部分」を見逃してしまっていることがあるためです。設計者はなにも、不具合がある機械を作ろうと思って設計しているわけではないのですが、結果的に起きてしまうものです。しかも、設計経験が浅かったり、社内で図面検討ができていない環境ではなおさら発生しやすくなります。
補足 機械の不具合とは
私は機械の不具合を下記のように解釈しています。
*機械を取り扱う上での不具合
- トラブル発生時に迅速に修理できない構造
- オペレーターがスピーディーかつ安全に機械を扱うことができない状態
*機械の稼働に関係する不具合
- 機械を稼働させることができない状況 = 停滞 = 不具合
- 機械が関係する作業に後戻りが発生する = 不良品 = 不具合
- 「労災事故」と「クラッシュ」が発生するリスクがある = 不安全 = 不具合
ではここで、不具合が発生すると何か起きるのか?機械メーカー側と機械を扱う顧客側を分けて考えてみます。
機械メーカー側の不具合が発生したダメージ
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納期が遅れる
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追加費用がかかる
- 機械メーカーのイメージダウン
不具合がある機械を使用している顧客のダメージ
- 不良品が発生して製造にかかったコストが無駄
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品質が悪いと製品を購入した顧客からクレームがくる
- 生産ロス(生産停止)によって製品1個あたりの原価が高くなる
*品質の意味は「顧客の要求/仕様をどれくらい満たしているか」です。
不具合は本当に良いことないです。設計者個人が「失敗を経験して成長する」と言う意味でとらえるなら全然OKですが、機械メーカーとして考えるなら、設計者によって完成度が違ってしまうようではブランド価値の低下になるし、そもそも利益につながらないので、防ぐことができる不具合は徹底して潰しておくべきでしょう。不具合をなくすことは、安全であり利益を生み出すために必要な取り組みなのです。
MP情報とコミュニケーションで不具合を撲滅
不具合がない機械を設計するためには、例えばこんな方法があります。
不具合をなくすための方法
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MP情報を設計に生かして改善する
- 顧客と設計者のコミュニケーションを充実させる
*MP情報とは、機械の不具合を収集してデータ化した情報です。
MP情報は実際にやってみてダメだった結果をまとめたデータなので、教科書では学べない有益情報です。これは、既存の機械だけでなく、新規機械の設計にも大いに生かすことができるので、積極的に取り入れます。
余談ですが、
余談ですが、、、、、機械メーカーの悪いところは、「うちにはこんなに凄い技術があります」と言いながら、実際に機械を扱う当事者ではないので、不具合に真剣に取り組む姿勢が足りていないのです。これは本当に残念なことです。
顧客が「この機能は機械として当然、当たり前」と思っている要件を明確にするためには、丁寧なコミュニケーションによってすり合わせをしなければなりません。そのための前提として、顧客側もメーカー側も「相手に自分の考えを伝える」「相手の考えを聞き出し理解する」ことと、お互いがある程度の知識経験を有していないと成り立ちません。なので、機械1台を任せる人材は非常に重要です。押し付けではなく、任せる前段階での人材育成と、周囲のフォローが欠かせないです。
人に恵まれないと最悪な結果になる
私が経験したお客さんの中には、「社内の自分の評価が一番」「機械の問題は全部メーカーに丸投げで押し付ける」って人がいましたが、もちろん結果は散々でした。一点一様の機械を作っているので当然使っていくうちに不具合が発生することがあります。使って初めて分かることは沢山あるのです。本来は、一つ一つ不具合を潰していけばいいだけですが、それにはお客さんの協力が大前提です。お客さんに「機械を正しい姿にしたい」という強い気持ちない場合は、何一つ改善することなく、機械がただ壊れていくだけです。つまり、不具合のない機械をつくためには顧客も機械メーカー側も機械に対する熱い思いがなければならないのです。
MP情報を設計に生かすために必要なこと
仕様書に書いてあること以外の部分は設計者が自由に構想できるわけなので、機械の形は同じ仕様であっても機械メーカーによって全然違いますし、設計者によって個性も出ます。
人それぞれの判断によるので、これが不具合につながる原因だったりするのですが、それにはMP情報を活用することで改善することができます。
MP情報を設計に生かすために必要なことは2つあります
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不具合を収集してMP情報をつくる仕組み
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MP情報を設計に生かす仕組み
MP情報は「実際に発生した不具合」を抜け目なくすべて記録することからはじまります。
詳しくは下記の記事をご覧ください。
参考
*MP情報の収集と活用方法についてはこちらの記事で詳しく解説しています。
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メーカー側とユーザー側のMP情報の活用方法【生産能力と品質向上と安全性】
続きを見る
顧客と設計者のコミュニケーションを充実させる
コミュニケーションって簡単ではありません。人それぞれに性格、思考、が違うわけで、結果「ものごとの表現」「理解した内容」が人によってバラバラだからです。
なので「相手に自分の考えを伝える」「相手の考えを聞き出し理解する」はめちゃくちゃ難しいことです。
コミュニケーションには「この方法がイイ」なんて断言できませんが、私が自分なりに実践しているコミュニケーション方法があるので紹介します。
自分の考えを相手に伝えるときに気を付けていること
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「曖昧な表現」「難しすぎる言葉」は使わない
- 相手の意見を強く否定しない。なんとなく肯定しつつ主張する
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「してほしいこと」「機械装置を作る目的」は明確に、データや資料があるといい
自分の考えを相手に伝えるときには、誤解や思い違いがないように曖昧表現をさけて「明確」に伝えるように意識します。相手の意見に反対の考えの場合は、相手が傷つくような否定の主張をするとギクシャクしてしまうので、相手の主張をぼかしつつ自分の反対意見を主張するようにしています。これはかなり難しいのですが、意識するだけで全然違います。
相手の考えを聞き出し理解するときに気を付けていること
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相手の話を遮らない、とにかく聞き上手に徹する
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「なるほど~」などの肯定的な相槌を欠かさずにする
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相手の「会社の情勢」「現場の雰囲気」「普段どのような方法で仕事をしているのか」など日常的なことを聞く
相手の会社の情報を聞き出すことは仕様書には書かれていないので貴重な情報となります。これによって「こんな方法はどうですか?」と言った提案もより広がるので、新しい機械に必要な機能のヒントがいくつも出てくるでしょう。
最終的にはコレが重要です
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「言った」「言わない」の水掛け論にならないように、メモ、記録、議事録、は絶対に取る
いくらコミュニケーションに気を使っても、人間の記憶は曖昧ですし、人の個体差で認識の差があるので「言った」「言わない」はどうしても避けられません。後々になって揉めることがないように、お互いのために、メモ、記録、議事録、は絶対に取るようにしましょう。
私の身近な人にこんな人がいます
一見、人当たりが良くてコミュ力が高そうにみえても、頻繁に「言った」「言わない」のトラブルが起きる人がいます。
コミュ力が高かったらトラブルが起きなさそうなのですが、この人は「曖昧表現」を多用する人で、会話しているときにはスムーズなのですが「なんでもかんでもボカシて話を進める」ので、後々になってトラブルが起きます。会話しているときに「揉めたくない」と言った癖があるようなので「明確」にすることを避けているのです。でも、結局はうまくいかないわけなのです。
なので、仕事での会話では重要なポイントはしっかりと明確にするように心掛けたほうが良いです。もし、相手が不機嫌になっても誠意ある態度示していれば、目指しているところは同じなのですから「わかってくれる」はずです。
ポイントのまとめ
それでは、機械の不具合について重要なポイントをまとめておきます。
ポイント
- 不具合をなくすためには、「MP情報」の活用と、顧客との「コミュニケーション」を充実させること
- MP情報(実際にやってみてダメだった結果)を設計に展開することで、圧倒的に不具合が少なくなる
- 丁寧なコミュニケーションによって仕様書に書かれていない「相手の要求」を見つけることが出来る
- 顧客も設計側も、お互いにある程度の知識経験を有している人が担当者にならないと上手くいかない
以上3つのポイントです。
コミュニケーションのヒントに下記の本がおすすめです。
*人は話し方が9割
*人は聞き方が9割
関連記事:【機械組立の心構えと基本】
以上です。