記事の目次
現場改造は寸法に矛盾が発生するので難しい
先日、久しぶり現場改造をおこないました。作業内容は、機械の一部のユニットを「新規のユニットに入れ替える」ことで目的は「多品種化」と「更新(新品にする)」でした。
改造の結果は、問題が多発して工期が伸び、工事完了後にもトラブルが発生してしまいました。
その問題が起きた要因は下記の3点です。
-
機械本体が20年以上前で使い古されている
-
ユニットが仕事をする相手の治具が50台と3000本ありどれも中古
-
図面が複雑(見にくい)で設計者ですら見間違えている
辻褄が合わない、矛盾が生じる可能性は作業をおこなう前からわかっていましたが、それに輪をかけて立場による主張がまとまらず、様々な意見が錯綜して方向性を見失ってしまったのです。
事前調査
私が初めにおこなったことは、改造の1週間前に事前調査として既設ユニットの状況を把握することでした。
私の一つの考え方として、以前記事にしました「原状復帰とは/機械装置の移設や改造メンテ」で解説しているように
- 原状復帰の基本は「何かをする前」の状態を再現すること
- 問題なく稼働していた=どのような精度であってもそれが正しい状態
と言う理論があります。ですから必ずしも芯とレベルを設計通りに設定することが「正」とは限らないのです。
既設ユニットがどのような状態であるかを把握し、どのような状態で新規ユニットに入れ替えるのかの判断材料として事前調査で測定をしたのですが、なかなかの数値を得ることが出来ました。
既設ユニットのフレームは全長2000mm、左右端でオートレベルで測定すると「10mm」も傾いていて、実際に治具に仕事をする部分は「±6mm」で一貫性がない数値でした。確認のため治具側も測定すると、治具側は傾きはほぼなく水平である事が分かりました。
この結果の裏付けとしてオートレベル以外のいくつかの方法で基準点を変えつつ測定をおこないましたが、「精度の傾向」は変わらず、、、でした。
直感的に「これは見誤るとやばいことがおきる」と思いました。
-
不確かさ
-
曖昧さ
-
原状復帰の観点
-
基準はどこか
頭に浮かんだこのキーワードです。
原状復帰の観点から考えれば、新規ユニットは旧ユニットと同じようにフレーム全長2000mmの左右端で10mmの傾きで取付ければ良いのですが、、、、
「果たしてそれで良いのだろうか」
そんな疑問を感じていました。
ユニット入替
さていざ工事が始まると、旧ユニットの撤去から新規ユニットの取付けまで順調に進みました。
精度については、新規ユニットを取付けて測定してみると、2000mmの全長の左右端で傾きが「1.0mm」でしたので旧ユニットが著しく劣化していたのではないか?と言う結論で、組付け段階では精度調整は行わずに「試運転しながら調整」することとしました。
しかしそこからが苦難の始まりでした。
試運転の段階となるとやはり問題が起きました。
- 干渉する
-
芯がズレている
-
治具によって高さが足りない
このような問題に対して、私に「全権」があって私の「やり方」で作業を進められることが出来れば解決できる自信はあったのですが、今回はそうはいきませんでした。
様々な立場の方たちの様々な意見が飛び交い現場は混乱することになるのです。
立場(役割)によって考え方が違う
今回の試運転で起きた問題点に対する考え方は立場によって様々でした。
*登場するのは5つの立場の方たちです。
-
設計(メーカー)
-
組立(メーカー)
-
生産技術(客先)
-
電気(客先)
-
製造(客先)
それぞれのスタンスを説明します。
*全ての人が立場と考え方に共通する訳はありません。
設計(メーカー)
*経験:設計歴35年で設計一筋
*考え:数値への拘りが強く、あらゆる寸法が図面通りでないと納得できない。「全ての測定と調整をするべき」と主張するが、測定しても矛盾が発生するのでパニックなり、さらにその原因追及のための作業が発生したり、最悪フリーズしてしまう。
*問題:主張はするがまとめることが出来ず、限られた時間の大部分が失われる。
組立(メーカー)
*経験:現場/組立の経験年数10年
*考え:組立の場合と現場作業の場合のやり方を臨機応変に変えることができ、作業工数(日程)を考えて最善最短を考えた仕上げをするので、無暗な測定や調整は好まず基準を決めたら必要な部分しか測定と調整をしない。もし試運転で問題が起きたらその都度対応する。作業は組立中心で進めて設計は分からないことだけ答えてくれればいい。
*問題:設計の主張が強かったので一歩引いて、設計と客先の言われるがまま作業を進めた。
生産技術(客先)
*考え:頭の回転が速く割と冷静だが、筋が通っていないと納得しない。設計があれこれと数値に関して発言する事で「それって何?なぜ?」と不毛な議論が発生する。組立から「矛盾が起きている理由」「どこを基準として進めるか」など不確かな情報でも明確に伝えると「理解」してもらえる。新しい取り組みをしているので、少々の問題が起きるのは仕方がないと理解がある。
電気(客先)
*考え:メカと電気を明確に区別する。運転中に問題が起きたときに、メカ的要因の場合にはあからさまに批判する。
*問題:協力的ではない
製造(客先)
*考え:現場の生産が最優先。機械の精度は関係なく「実際やってみてどうなのか?」で判断する。干渉やセンサ誤作動などのトラブルが起きると、目先の状況にとらわれるので混乱を招くことがあるが、「機械にトラブルが起きる」ことに慣れているので理解がある。
立場による考えまとめ
このように立場によって「目的」は同じでも考え方(意見)は違います。それは自分に与えられた役割を全うするためであって、性格も関係しますが仕方がないことだと思っています。それぞれの立場になって「なぜそのような考えになるのか?」と、相手の心理を考えれば「確かにそうだよね」と理解できますが、、、、。
しかし、それでは前には進まないわけです。
前に進むために必要なことは、「全ての意見をまとめる」のではなく「責任をもって最後までやり切れるリーダーシップ」です。
今回の場合は、客先の窓口が「設計」になっていて、組立の私は客先との面識がなかったこともあり工事監督でしたが、細かな指示は設計仕切っていたことが仇となりました。
結局どうなったのか
設計からの指示で測定や調整を繰り返しましたが、「いい結果」が得られませんでした。
工期が伸び、皆が疲弊していく中「設計」と「生産技術」の方は万策尽きて放心状態。
その状況を打破したのが「製造」の方でした。「こうしよう」「ああしよう」と意見が飛び交い、それは私の考えと一致していたので、そこからの作業は「良い方向」へ加速していき、「なんとか」やり切ることができたのです。
流動確認の立ち合い
試運転での調整が終わり、翌日から生産開始の流動です。この流動に設計ではなく組立の私が立ち会うことになりました。
いざ流動がはじまると、新たな問題が起きました。どうやらワークなしの治具で試運転していたのですが、ワークありだとワークの圧力や温度によって状況がかなり違うようです。
-
治具の位置が試運転よりも高くなっている
-
治具に干渉するときがある
-
センサが反応しない時がある
試運転の段階だったらこのような問題が起きると、解決まで非常に時間が掛かった訳ですが今回は違いました。それは「設計」が居ないので「組立」の私がリーダーだったからです。
すぐさま問題の対応し、客先へ懸念事項やそれに対する対策案を示し嘘偽りなく現状を報告しました。
その後
流動確認が完了し一連の工事が終わりました。
そしてなぜか、客先の窓口が設計から組立の私に変わっていました。
客先は設計に問い合わせるよりも「組立に聞いたほうが良い」と判断されたようです。
なんだかモヤモヤしますね。私はそんなことを望んでいたわけではないのに。
自分の思考と立ち位置を考えて
今回の問題点は2点です。
-
精度の矛盾が多発した
-
最後までやり切れる人が仕切っていなかった
この中で一番の問題は「仕切り役」です。主張はするがまとめることが出来ない人が仕切っていたこと。
例えば、「設計の管理を組立がやったら?」「組立、現場の監督が設計だったら?」どうでしょう、、、違和感がありますよね。
今回の場合も然りで、精度調整するのは組立で経験もあります。実際に作業をしない設計が強く主張することが上手くいくのでしょうか。
つまり、必ずしも「僕頑張ってます」が評価されるわけではない、全員の目標は同じでも考え方(意見)は違う、誰もが「その時の結果」を出せるわけでもない、と言うことなのです。
本来はこのようなことがあってはならないのですが、私はいい勉強になりましたね。
役割が違う以上、必要以上にその人のテリトリーに入り込むべきではないし、相手が求めてきた時だけ意見すれば良いのかもしれません。
もし「自分が正しい」と思うのならば「最後まで自分の力でやり切る」ことが求められるし、できなければ信用は失います。
その辺を皆が理解していればよかったのですが、なかなかうまくいかないものです。
参考
関連記事:【仕事と思考】
以上です。