今回は「ねじの締め忘れ対策とヒューマンエラー」についての記事です。
私は、機械装置業界で組立をメインに仕事していますが、「ねじの締め忘れ」について様々な取り組みをしてきました。
しかし、ねじの締め忘れの発生は簡単にゼロにはなることはありませんでした、、、、。
そこで今回は、私がねじの締め忘れに対してどのような対策をしたのか?どのようにしてねじの締め忘れを低減したのか?を紹介しようと思います。
ねじの締め忘れ対策とヒューマンエラー
ねじの締め忘れ
ねじの締め忘れは無くならない・・・。
私は、この業界に10年以上従事していますが「ねじの締め忘れ」は本当に無くならないんですよね、単純で簡単な事なんですが、私の永遠のテーマになりそうです。
以前ヒューマンエラーについてセミナーを受けたのですが、「人がエラーを起こす根本」に迫る事を聞きました。
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「人間は単純な事ほど疎かになり忘れる」
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人間は「~をしてはいけない」は中々出来ないが、その逆に「~をする」は実行できる。
なんとなく私も共感したんですね。人間の心理的要因が深くかかわっている事が分かったと言うか、誰か特定の人が悪いわけでなく人間そのものに問題があって誰でもエラーを起こすと言う事なんですよね。
つまり、ねじの締付も物凄く簡単なことだけど誰でも忘れてしまう可能性があるし、しかも単純な事だからなおさら。
そんなことを踏まえたうえで、ねじの締め忘れについて考えてみたのです。
締め忘れる理由と対策
ねじを締め忘れる理由には、どのような事があるのでしょうか?
私が経験してきた締め忘れる理由をまとめてみます。
忘れる理由
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部品を沢山取付けた後で、精度調整して締付けるので抜けが出る
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装置の立上げ(通電)後に、動作させながら調整するからねじを締めない
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組立途中で違う作業をやりだしたり、持ち場を離れるのでどこまで進んだか忘れる
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ねじの仮締めで休憩や一日の作業終了時となった時に、作業再開したら仮締めのねじを忘れてしまう
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ねじの締め忘れを確認したいが、ねじの本数が多すぎて面倒だから増し締め確認をしない
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一度締付けたねじを、調整などで緩めると再度締付ける事を忘れる(一度締付けているので締付けたモノと処理する)
ありがちな事ばかりですよね。
私はこのような問題に対して、下記に示すような対策を行ってみようと思いました。
締付けをしない/忘れる理由 | 締め忘れない方法 |
部品を沢山取付けた後で精度調整して締付けるので抜けが出る | 部品一点一点の精度を確定させ締付けてから、次の部品を取付ける |
装置の立上げ(通電)後に動作させながら調整するからねじを締めない | <例外なく全てのねじを締付ける。調整する時は緩めれば良い |
組立途中で違う作業をやりだしたり、持ち場を離れるのでどこまで進んだか忘れる | 任せた作業にメドが付くまで他の作業を与えないマネジメント |
ねじの仮締めで休憩や一日の作業終了時となった時に、作業再開したら仮締めのねじを忘れてしまう | 図面寸法/図面精度となっている部分のボルトは、組立途中であってもマーキングしていく。締め忘れはマーキング中に気が付く |
ねじの締め忘れを確認したいがねじの本数が多すぎて面倒だから増し締め確認をしない | ねじを締付けたら「マーキング」を徹底する。マーキングが無いねじを増し締め確認とマーキングをする |
一度締付けたねじを調整などで緩めると再度締付ける事を忘れる(一度締付けているので締付けたモノと処理する) | マーキングがない/マーキングがズレているねじは定期的に確認する時間を作り、増し締めとマーキングをする |
冒頭のヒューマンエラーの話しにあったように「~をしていけない」と言うような指示は意味がありません。例えば「ねじの締付忘れをしてはいけない」と言う指示です。
ですから対策の方法としては「~をする」と言うルールとなるように考えてみたのです。
特に、単純明快でインパクトのある対策が「例外なく全てのねじを締付ける。調整する時は緩めれば良い」です。
部品が斜めについていたり精度が出ていなくても、兎に角ねじを締付ける。本来はそれでは困るのですが、「ねじの締め忘れ」の観点で考えるとこれに尽きると思いました。
しかし、実際に取り組んでみますとやはりそう簡単な事ではありませんでした。作業のやり方を柔軟に変えられる人もいれば、中々変えられない人もいて足並みがそろいませんでした。
そこで私が対策を徹底する為に行ったことは「1日に何度も繰り返し注意喚起と声掛けをした」でした。
とにかく何度も何度も作業者に繰り返しお願いをしました。
1年経過した時にはねじの締め忘れがほぼなくなりました。1年かかったのには作業のルーティーンとして定着するのにそれほどの時間を要したという事になりますね。
それでも締め忘れは無くならない
ねじの締め忘れについては9割以上なくなったのですが、「ゼロ」になったわけではありませんでした。
そう本当の意味でのヒューマンエラーはココからでした。
なぜか「自分のルール、自分の考え」でねじを締付けない作業者がいるのです。それは常に自分の考えで締付けないのではなく「時々締付けない」のです。
「時々自分の考えで締付けない」、、、、
これは非常に厄介です。作業者本人も「全てのねじを締付る」と認識しているのに「時々締付けない」のです。
「これぐらいは良いや」「最後に自分で調整するし」「寸法が良く分からないし、後回しにしよう」「単純に忘れている」・・・・こんなところでしょうか。
いくら意識していても、ルーティーン化しても、無くならないのです。これがヒューマンエラーなのでしょうか。
さらに詰めていけば「チェックシート導入」や「第三者のチェック」と言う対策も考えられますが、今の所は「そこまでしたくない」との思いから見送っています。
締め忘れの最終確認は?
ここまでで、ねじの締め忘れが「ゼロ」にならないとの結果になっていますが、もちろんそのまま客先へ納入するわけにはいきません。
それではどうしているのか?
私が、定期的に見回って「締め忘れ」を発見したり「増し締め/マーキング」を出荷前に絶対に実行するようにしています。
曖昧と言われればそうかもしれませんが、今の所はこのやり方に落ち着いています。
冒頭にも言いましたが、「私の永遠のテーマ」になりそうです。
組立精度の向上
話しは変わりますが、ねじの締め忘れについて対策していく中で気が付いたことがありました。
それは、ねじの締め忘れが少なくなった事の副産物として組立精度が向上した事です。
組立精度の向上とは装置の立上げ調整の時のメカ調整が少なくなった、垂直立上げに近づいたと言う事を実感したのです。
なぜ組立精度が向上したのか?
それは作業者が今まで以上に考えて作業をするようになったからです。
それはどう言うことなのか?
ねじの締め忘れ対策を大きくまとめると「ねじを締付ける」「マーキングをする」の2点になるのですが、これを徹底する為には「組立完了後に再調整する事を想定してはイケない」と言う事になるのです。
ねじの締付/マーキングの徹底=再調整が不要の組立=組立精度が高い=図面に忠実な組立
これは素晴らしい事ですね。組立の時間は今までよりかかってしまいますが、立上げの調整時間が少ないと言う事はそれ以上の価値があります。
例えば「ソフト屋さんに待ち時間を与えない」「第三者に、大丈夫なの?と不信感を与えない」「現場改造のユニットの場合は現場での限られた作業時間にスマートに終えられる」「部品や設計ミスに組立段階で気が付く」など良い事しかありません。
組立精度が向上し後戻りが発生しなくなった事は物凄い成長でした。
まとめ
今回はねじの締め忘れについて私の実体験を紹介しました。組立てるモノや作業環境が変われば、発生するミスや対策も変わってきます。私の事例を参考にしてもらえればと思います。
参考
*ヒューマンエラーについては書籍で学べます。
関連記事:【機械組立の心構えと基本】
以上です。