設備のトラブルはよくあることですが、トラブルの原因を突き止めること、対策すること、は誰でもできるわけではないです。と言うのも、原因調査をして方向性を見いだすためには、知識経験が必要ですし資料をまとめることも必要になるので、個人の能力が試されるからです。しかも地味な作業なので根気がいります。
私は10年以上機械装置業界に従事していますが、それなりに設備のトラブルに遭遇してきて、逃げずに一つ一つ解決してきました。その経験をもとに、原因調査するときのポイントをまとめておこうと思います。
記事の目次
設備トラブルの原因調査のコツと報告書のまとめ方
設備トラブルが起きたらどうすれば良いのか?
設備のトラブルは生産に大きな影響を与えるので避けなければなりません。一般的には予防保全と言って設備が故障する前に定期的な部品交換をする方法が取られることが多いのですが、キチンとメンテしていても予期せぬ故障が発生することがあります。
その中でも、厄介なことはトラブルの原因が「分からないとき」です。
原因が分かっていれば、部品の交換周期を見直す、故障しにくい構造に改善する、原因を解決して壊れないようにする、ことが可能なのですがそれができないとなると致命的です。
トラブルの原因が分からなければ、原因調査をおこない原因の推測(特定)と対策を報告書にまとめることが必要になります。この作業は一見簡単そうなイメージを持つ方もいるかもしれませんが、実際はかなり難しい仕事です。
と言うのは、トラブルの場面は多種多様で、設備の種類、規模感、部品の形状の違い、動作方式の違い、動作フローの違い、など設備によって違うので前例が通用しないことがあるからです。私の場合も一品一様の設備を組立てること多いですし、他社製の設備に携わることも多いので、簡単に原因解決、、、とはいきません。
そんな状況で私が原因調査の心構えとしていることがあります。それは「正しく情報収集し客観的に判断する」と「目に見えていない事実を明らかする」です。この心構えは正しい結論を導きだすために大切なことです。
原因調査と報告書にまとめるポイント
それでは、原因調査をするときのポイントを紹介していきましょう。
原因調査するときのポイント
ここに挙げた3つは私が調査するときに守っているルールであり、最低限この3つが出来ていれば「調査」と言えると思っています。*次項から詳しく解説していきます。
原因調査ができたら、その結果を報告書にまとめます。資料にすることでより客観視できるので原因の推測(特定)と対策が容易になり、将来のために事例を残すことも可能になります。そして何より、社内や客先と共有するためには報告書が必要条件になります。
報告書をまとめるポイント
詳しくは記事の後半で説明しますが、感想文になってしまわないために大切なポイントです。
原因調査するときのポイント
評価基準の根拠を示す
評価とは簡単に言うと「良い」「悪い」を判断することですが、設備がトラブった場合の評価とは、「測定によって数値化したデータ」と「目、耳、手、の感覚から得られた情報」の一つ一つの事柄、一つ一つの事象に対してそれぞれに評価基準を設けて「良い」「悪い」を判断することです。
ここで大切なことは「評価基準の根拠」を必ず示すことです。
評価基準の根拠はいろいろあります
- 力学に基づく値
- 設計値に基づく値
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故障前後に発生する症状や事例
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新規で設備を組立てたときの精度
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機械要素に基づく取扱いの在り方
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購入部品のメーカーが示している値
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良品の製品を生産するための基準値
これ以外にも評価基準となるモノはあると思いますが、私が何かを評価するときはおおよそこのような内容から、評価基準を掘り出して決定しています。
時々ですが「その評価基準はおかしい」とか「計算が間違っている」とご指摘を頂くこともありますが、その場合はその都度修正したり、第三者を交えて再検討しています。正直なところ、なにか特別な専門機関ではないですし権威ある人間でもないので、ミス、見落としはあります。大切なことは、根拠のある評価基準を設けて「他者の意見を受け入れる謙虚な気持ち」で作業することです。
ちなみにですが、根拠となる情報を示すためには知識と経験が必要なので、評価基準を示すことができないときは無理に評価せずに、調査した内容のみを報告して評価できる部署、評価できる人にゆだねるのが賢明です。
測定によって数値化し評価する
「良い」「悪い」を評価するためには、測定によって数値化したデータがもっとも有効です。数値による評価は「客観的な判断」ができます。
ただし、気を付けなければいけないことが2つあります。それは「測定値の改ざんは厳禁」であり「ありのままの数値を記録する」と言うことです。例えば、測定値が綺麗な数字の並びにならないから「ちょっとくらい数値変えてもいいでしょ」と測定値を改ざんする、測定値56.45mmを四捨五入して56.5mmとか56.0mmとして記録する、です。
せっかく測定しても「間違った評価になる」「事実がぼやけてしまう」のです。と言うことで、「測定値の改ざんは厳禁」であり「ありのままの数値を記録する」ことは肝に銘じておきましょう。
設備がトラブって何かを測定する作業は、次に紹介する測定ポイントを押さえておけば大丈夫です。
測定のポイントはコレ
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最適な測定器を選ぶ
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数回測定して信頼性を増す
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正しい測定方法で測定する
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測定した結果は「データ一覧」と「図」で示す
測定器の種類は様々ですが、その中から最適な測定器を選ぶ必要があります。穴を測定する場合には「ノギス」「ホールテスト」「内側マイクロメーター」「シリンダーゲージ」などがありますが、その時の状況で一番正確に測定できる測定器を選ぶ、または、測定の目的に合っている測定器を選ぶ、ことが最適な測定器を選ぶコツです。例えば「穴の楕円を評価したい」のであれば3点測定のホールテストは不適であり、2点測定の内側マイクロメーターやシリンダーゲージが適していると言うことになります。
測定値が細かくなればなるほど、測定した値にバラつきが生じやすく、測定ミスも発生し易くなります。そのため数回測定して「平均値を測定値とする」「数回測定した値をそのまま測定値として記録する」「安定して得られる値を測定値とする」などの数回測定が大切です。
正確な測定値を得るためには、正しい測定方法で測定することです。正しい測定方法とは「温度、湿度、雰囲気に気を使う」「適切な測定器の扱い方をする」「測定物の汚れやバリを除去する」ことです。例えば、測定器の扱い方は「測定器の取扱説明書を熟読する」「ポリテクセンターや測定器メーカーが実施している講習会で学ぶ」「普段の仕事から測定感覚を意識する」ことで身に付きます
測定した結果はデータ一覧としてまとめるだけではイメージしにくいのでイマイチです。データ一覧だけでなく「図で表現する」をプラスすることによって「どこを測定したのか?」をより明確にし、誰でも「素早く認識できる」「見間違いを防ぐ」ことが重要になります。
目、耳、手、の感覚で評価する
トラブルが起きている設備や異常がある部品を目、耳、手、の感覚で評価することは、数値で評価するよりも難易度が高くなります。それは、感覚を言葉に置き換える能力が必要なためです。
例えば、目から得られる情報には「動きの度合い」「形状の度合い」「速さの度合い」などがあり、耳から得られ情報には「異音の度合い」などがあり、手から得られる情報には「面や形状の状態」「振動の度合い」「太さの度合い」などがあります。このような情報をどのように認識してどのような言葉で表現するのか?、、、、これには「豊富な経験」と「表現する感性」が必要であり、感覚を相手に伝えたときの受取り方に個人差があることも考慮しなければなりません。
感覚で評価するポイントはコレ
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感覚と数値(データ)を合わせて評価
- 写真や動画を共有して感覚を見える化する
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自分と第三者の予備知識や前提が同じである必要
感覚から得られた情報はそれだけでは説得力に欠けるので、感覚の裏付けとして測定によって得られたデータと合わせて評価すると信頼性の高い情報となります。
目、耳、手、の感覚を言葉で表現するのではなく、写真や動画で感覚の見える化をすると第三者から理解が得られやすいです。最近のスマートフォンは性能が良いので、活用しましょう。
言葉で第三者に感覚を伝えるためには、相手の予備知識や物事の前提が自分と共有出来ていることが大切です。これができていないと、うまく伝わりませんし誤解を招くことになります。
以上3つのポイントを使い分けることが出来れば、感覚によって得られる情報も立派な評価材料となります。
原因調査を報告書にまとめるポイント
必要な情報を入れること
原因を調査したら、報告書や調査結果と呼ばれる資料にまとめて、社内、客先、と共有します。
報告書のフォーマットがあればいいのですが、ない場合は一から自分で作らなければなりません。その時に注意したいのは「必要な情報を必ず記載する」ことです。
例えばこんな必要な情報があります。
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調査のタイトル
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調査した日付
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調査した人の名前
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調査内容や概要
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使用した測定器
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調査の方法や手順
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調査結果のデータと図
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調査結果の評価
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原因の推測と考えられる対策
調査自体が再現性がある調査であり信頼性の高いものでなければならないので、このような情報が必要になります。
調査結果のデータと図については「測定によって数値化し評価する」と「目、耳、手、の感覚で評価する」で得られた情報をまとめればOKです。調査結果の評価は「評価基準の根拠を示す」をもとに調査結果を評価すればOKです。
因みに、忘れがちなことに「数値の単位」が間違っていたり、記載を忘れてしまうことがあります。単位はめちゃくちゃ重要なので忘れずに。
主観は避けて原因の推測と対策を記載する
報告書や調査結果の最後には、調査の結果を評価した情報をもとに「原因の推測」や「考えられる対策」を記載することになりますが、ここで大切なことは「主観で語る」ことは避けることです。
感想文になってしまわないように、必ず事実と根拠に基づく「原因の推測」や「考えられる対策」を書きます。簡単に言うと、「○○の場合はおそらく☐☐すれば改善すると思います」ではなく「○○は☐☐なので△△の対策が有効」と言った結論です。
最終的な判断は、調査した自分だけでなく報告書を受け取った人にもゆだねられますので、判断材料を提供する役割を担っていることも自覚しましょう。
ポイントまとめ
それでは、設備トラブルの原因調査のコツと報告書のまとめ方について重要なポイントをまとめておきます。
ポイント
- 原因調査の心構えは「正しく情報収集し客観的に判断する」「目に見えていない事実を明らかする」
- 原因調査のポイントは「評価基準の根拠を示す」「測定によって数値化したデータを評価する」「目、耳、手、の感覚から得られた情報を評価する」
- 報告書には最低限の「必要な情報を必ず記載する」こと
- 主観は避けて事実と根拠に基づく原因の推測と対策を記載すること
以上4つのポイントです。
*図解でわかる!理工系のためのよい文章の書き方
関連記事:【機械組立の心構えと基本】
以上です。