今回は「ローラチェーンカップリングの芯だし精度とグリースの種類と注意点」についての記事です。
軸継手の仲間にローラーチェーンカップリングというものがあります。ローラーチェーンカップリングはスプロケットとチェーンを使用したカップリングなのでミスアライメントの許容値が大きく潤滑が必要となる特徴がありますが、ミスアライメントの許容値が大きいとは言え芯出し作業は必要ですし、グリースの塗布にも注意点があります。
そこで今回の記事では、ローラーチェーンカップリングの組付けに必要な芯出しとグリース潤滑についてまとめておこうと思います。
記事の目次
ローラチェーンカップリングとは
ローラチェーンカップリングとは、軸端にスプロケットを取り付けて、ローラチェーンで軸と軸をつなぐ軸継手です。
出典:椿本チェイン ツバキカップリング カタログ
おもな構成部品は下記の5点です。
-
スプロケット・・・動力伝達
-
ローラーチェーン・・・動力伝達
-
ケース・・・グリスの飛散防止、巻き込まれ防止
-
オイルシール・・・外部と遮断し、グリスの流出と異物の混入を防ぐ
-
パッキン・・・外部と遮断し、グリスの流出と異物の混入を防ぐ
ケースは例外として取り付けないこともあります。
特徴
ローラチェーンカップリングの特徴をまとめておきます
メリット
-
安価
-
伝達能力が大きい
-
ミスアライメントの許容値が大きい
-
構造が単純で分解組付けが容易
デメリット
-
バックラッシュが大きい
-
グリス潤滑が必要
-
チェーンとスプロケットが摩耗したら交換
このように、精度がないことを引換えにミスアライメントの許容値が大きく単純構造の特徴があります。そのため、大型機械のコンベアの駆動などの高い精度が必要がない部分に見受けられます。
組付けに重要なこと
ローラチェーンカップリングはミスアライメントの許容値が大きいため、組付け精度に気を使わなくてもいいと思われるかもしれません。
しかし、ミスアライメントを許容値以上に吸収できるわけではないので、やはり芯出し作業は必要となります。
ローラーチェーンカップリングの組付けに重要なこと
-
芯だし精度
-
グリースの種類と注意点と交換周期
それでは、上記2点についてまとめていきます。
芯だし精度
ローラチェーンカップリングの芯出しの測定箇所は3つあります。
測定箇所
-
スプロケットの角度
-
スプロケットの平行度
-
スプロケット間の距離
いずれの測定箇所もディスク形カップリング(フレックスカップリング)と同様ですが、距離、角度、平行度の誤差の値がローラチェーンカップリングのほうが緩い値となっており、そのため使用する測定器はダイヤルゲージではなく直尺やすき間ゲージで十分です。
スプロケットの角度
スプロケットの角度の調整は、スプロケット同士を突き当て測定します。
カタログでは角度の誤差は1°とされていますが、突き当てたときにピタリと引っ付くように調整(目視確認でOK)することが望ましいです。
もし隙間を測定する場合には直尺かすき間ゲージを使用します。
出典:椿本チェイン ツバキカップリング カタログ
スプロケットの平行度
スプロケットの平行度の測定は、角度測定と同様にスプロケット同士を突き当てて測定します。
スプロケットの端面に直尺をあてて段差を測定し、段差がない状態に調整することが望ましいです。測定箇所は1か所ではなく、上下(縦方向)と左右(横方向)の2か所測定するようにしましょう。
出典:椿本チェイン ツバキカップリング カタログ
スプロケット間の距離
スプロケット間の距離は直尺か隙間ゲージで測定します。
すき間が規定値から外れているとスプロケットが掛からないので注意が必要です。もし、規定値が分からない時にはチェーンのピッチを測定してその値にスプロケットにピッチを調整すると良いと思います。
出典:椿本チェイン ツバキカップリング カタログ
データシート
下記に芯出しの規定値を引用します。この数値に収まるように「距離」「角度」「平行」を調整します。
出典:椿本チェイン ツバキカップリング カタログ
*クリック拡大
出典:KANA チェーンカップリング カタログ
*クリック拡大
芯だし精度まとめ
それでは、芯だし精度について重要なポイントをまとめておきます。
ポイント
- 測定には直尺かすき間ゲージを使用
- スプロケットを突き当てて角度と平行を測定
- 測定は上下と左右の2か所
以上3つのポイントです。
グリースの種類と注意点と交換周期
では次に、ローラチェーンカップリングの潤滑剤についてまとめておきます。
ローラチェーンカップリングはチェーンとスプロケットを使用したカップリングのため、金属同士の摩擦によって摩耗が起きます。
その摩耗の対策には潤滑が必要で、ローラーチェーンカップリンの場合にはグリースを使用します。
グリース潤滑のポイントは下記の3点です
-
グリースの種類
-
塗布の注意点
-
グリース交換周期
グリースの種類
グリースには多くの種類があり迷ってしまいますが、使用するグリースは下記のものが推奨されます。
チェーンカップリングに使用するグリス
-
極圧添加剤入りのリチウムグリース や 高荷重用のリチウムグリース
-
ちょう度は 1号(柔らかい) か 2号(普通) を使用する
リチウムグリースは万能グリースと言われる一般的なものですが、さらに摩擦に強い極圧添加剤が入っているグリースを使用すると摩耗が抑えられ効果的です。
ちょう度はグリースの硬さのことですが、硬すぎると抵抗と発熱が大きくなり、柔らかすぎると流出やグリースが流れ落ちてしまい潤滑作用が低下するので効果的ではありません。丁度いい硬さがちょう度1号、2号あたりされています。
リチウムグリース
塗布の注意点
グリースの塗布は下記のようになります。
方法
-
グリースをチェーンに塗り込む
-
グリースをケースに充填する
手作業でグリースをチェーンに塗り込み、ケースに充填します。だたし、この作業では注意しておきたいことがあります。
注意したいこと
-
グリースの入れすぎに注意
ケースにグリースを充填するとき、いったいどの程度グリースを充填すればよいかが分からなくてケースに一杯詰め込んでしまわないように使用ましょう。
それはグリースを充填しすぎると、回転の抵抗が増大、グリースが発熱し劣化が早まる、グリースがケースから漏れてくると言った問題が起きてしまうためです。
ですから、カタログの充填量を入れるようにしてください。もし充填量がわからない場合には、ケースの半分を目安にグリースを入れると良いと思います。
*下記の充填量を参考にしてください。
出典:出典:椿本チェイン ツバキカップリング カタログ
出典KANA チェーンカップリング カタログ
グリースの交換周期
グリースは定期的な交換が必要です。交換の目安は下記のようになります。
交換や塗布の目安
-
バラス機会があればその都度グリスを塗布か交換する
-
月1回前後で塗布する
-
3000時間前後で交換(半年前後で交換)
このような目安で塗布や交換をお勧めします。
参考
*こちらの記事では1年使用したグリースの劣化を検証しています
もし、グリースの塗布や交換したときに、使用していたグリースが下記の状態のときは注意が必要です。
グリースの状態
-
グリスが黒色に変色している。芯出し不良で金属が摩耗している
-
グリスが茶色に変色している。水分が混入している
このような状態ですとグリースが著しく劣化していると思われますので、交換周期を早くするか、原因の対策が必要だと思います。
グリースの種類と注意点と交換周期のまとめ
それでは、グリースの種類と注意点と交換周期ついて重要なポイントをまとめておきます。
ポイント
- ちょう度が1号か2号の極圧添加剤入りのリチウムグリースを使用する
- グリースの入れすぎには注意する。目安はケースの半分程度
- グリースには定期的な交換が必要
- グリースが黒色、茶色に変色していたら異常のサイン
以上4つのポイントです。
まとめ
今回はローラチェーンカップリングについて芯出しとグリース潤滑についてまとめてみました。チェーンカップリングはミスアライメントの許容値が大きく単純構造なのでメンテナンスを怠りがちです。しかし、潤滑が必要なカップリングですから必ずメンテナンスは必要で、逆にグリースの交換さえしっかり管理できていれば簡単に破損する部品ではありません。参考にしてください。
*極圧添加剤入りリチウムグリースの購入はこちらから
*ローラチェーンカップリングの購入はこちらから
関連記事:【回転運動の要素】
以上です。