今回は「シムで機械の精度を調整をする」についての記事です。
機械装置の組立や調整で欠かせないモノにシムがあります。シムはできれば使用したくはないのですが、どれほど精度が良い製作部品であっても公差や累積誤差などの影響でシム調整が必要になってしまいます。
そこで今回の記事では、シムを使用するにあたり必要となるシムの基礎情報について紹介しようと思います。
記事の目次
シムとは何か
シムとは
シム(Shim)とは直訳すると「詰め物」です。類似の言葉にはスペーサーやライナーがあります。
*下記は私が使用しているロール状の汎用シムです
出典:株式会社岩田製作所 シムボックス (幅10~100mm)
組立における意味と使分け
シム/ライナー/スペーサーと同じような意味を持つ言葉で混乱してしまいます。私の場合は3つの言葉を使い分けていますが、明確な使分けがあるわけではないと思われます。
私の使分けは下記の通りです。
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シム・・・精度調整をする詰め物で、1.0mm以下の薄物を呼ぶことが多い
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ライナー・・・精度調整をする詰め物で、1.0mm以上の厚物を呼ぶことが多い
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スペーサー・・・傾きを変化させずに部品の位置調整をする詰め物
シムで機械の精度を調整をする
組立作業では部品を取付けるだけでは精度が出ない場合が多々あります。
その理由には、取付面が面削されていなかったり、面削されていても部品の積み重ねで累積公差の影響があったり、現合で精度を合わせこむ設計であったりする事があげられます。
このような場合に、精度調整をする一つの手段がシム調整となるのです。
メモ
精度測定をする時に使用する測定器以上の精度は出すことが出来ませんので、「どういった測定器で目標とする精度はどこなのか?」によってシム調整の必要性は変わってきますし、やみくもにシムを多用すると部品をバラシた時に再現できなかったりシムを紛失してしまう事もあります。ですから、シムを使用する場所(どの部品にシムを入れるのか?)や入れる量(沢山入れると見栄えも、機能も低下する)を考えたうえで使用してください。
シムを使用する場面
シムを使用する場面は精度調整をする時ですが、具体的に精度調整とはどういった作業でしょうか?
*精度調整とは?
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部品の傾き
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部品の位置(スペーサーの意味に共通)
上記の2点を変化させる事で理想の状態へ調整する作業の事を精度調整と言います。
*シムを挿入する場所は部品の取付面です。挿入して部品の取付具合を変化させます。
引用抜粋:株式会社岩田製作所 シムスペーサー使用例
シム以外の方法/余談
少し話しはそれますが、シム以外の精度調整方法を考えた時にどのような方法があるか検討してみたいと思います。私の思い付く所では2つの方法がありますので、解説しておきます。
*他の方法は?
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部品にタップ加工をして調整ねじ方式
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部品を面削加工(追加加工)
例えばこのような方法があります。
1.調整ねじ方式のメリット/デメリット
調整ねじ方式のイメージ図
調整ねじ方式のメリット/デメリット
メリット
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精度調整が簡単。ねじの締めと緩めで部品の取付具合が容易に変化する
デメリット
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設計段階で盛り込まなければならない
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調整ねじの先端が相手部品に食い込む
- 現場側で押しボルトを追加した場合は図面フィードバックが必要
2.部品の面削加工のメリット/デメリット
部品の面削加工のメリット/デメリット
メリット
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現合の面削加工となる為、部品の接触面の安定性が良い
デメリット
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表面処理していた場合は部品の地がでてしまう
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現合の為、加工と組付け、測定を繰り返し行う必要がある
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部品が破損し、再製作となった時に同じ部品を作ることが出来ない
必要なシムを判断して材質、形状、厚さを決める
シムの材質と形状には様々なモノがあります。どのような材質のどのような形を選定するかは状況により考える必要があります。
*状況とは?私の判断基準
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作業性・・・シム調整のし易さとシムの加工のし易さ
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使用環境・・・耐腐食性が必要か?
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再現性・・・再現性が求められる場合には、シムの入れ方(シムの形状)に注意が必要。
以上の3点を判断してシムの、材質、形状、厚さ、を選定します。
それでは、シムの材質、形状、厚さにはどのようなものがあるか確認したいと思います。
シムの材質
シムの材質は数多く存在しますが、一般的に使用頻度が高いのは真鍮/鉄/ステンレスの3種です。これら以外には、銅/鋼/アルミなどもあります。
*使用頻度の高い材質のシムを比べてみました。
種類 | 価格 | 加工のし易さ | 耐腐食性 | 厚さの精度 | 強度(潰れる) |
真鍮 | 高価 | ◎ | ○ | ○ | △ |
鉄 | 安価 | ○ | △ | △ | ◎ |
ステンレス | 高価 | △ | ◎ | ◎ | ◎ |
シムの形状
シムの形状も種類が豊富です。カットして使用するシムの場合は形状を自分で決められるので形状は無限大です。
*市販されている使用頻度の高いシムの特徴をまとめました。(私の主観です)
形状 | 汎用性 | 接触面積 | 再現性 | 作業性 |
シムロール/シムプレート | ◎(カットして使用) | 形状次第 | 形状次第 | 形状次第 |
シムリング | △ | △ | ◎ | △ |
切欠きシム | ○ | ○ | △ | ◎ |
穴あきシム | △ | ◎ | ○ | △ |
出典:株式会社岩田製作所 シム・スペーサー
シムの厚さ/種類
シムの材質と形状が決まったら、厚さの選定も必要になります。ここでは、シムの代表的な岩田製作所さんの通常のラインナップをまとめておきます。
*オーダーですとここに記載している以外の厚さを製作してくれます。ミスミさんでも同じようなラインナップがあります。
形状 | 材質 | 最低厚さ(mm) | 最大厚さ(mm) |
シムロール(シムボックス) | 真鍮 | 0.01 | 0.1 |
シムロール(シムボックス) | ステンレス | 0.005 | 0.1 |
シムリング | 真鍮 | 0.05 | 1.0 |
シムリング | 鉄 | 0.1 | 1.0 |
シムリング | ステンレス | 0.01 | 1.0 |
切欠きシム | 真鍮 | 0.05 | 1.0 |
切欠きシム | 鉄 | 0.1 | 1.0 |
切欠きシム | ステンレス | 0.05 | 1.0 |
ここで、一つ気になる事があります。私が調べた所では、汎用性が一番高いシムロール(シムボックス)が国内メーカーでラインナップされている物が薄物しかないと言う事です。
私の場合は、厚めのシムを使用する頻度が高いのでこれでは困ってしまいます。そこでもう少し調べてみますと、エスコ便利カタログにアメリカ製のシムロールで0.8mmまでの厚めのタイプがラインナップされていました。
引用抜粋:エスコ便利カタログ P1507 シム
と言う事で、実際に私はこのアメリカ製のシムを使用しています。ただ、このタイプのシムはカットして使う事が前提で、私は金切はさみでカットしていますが0.5mm以上の厚さになってくるとカットしにくくなり作業が大変になってきます。
汎用性のある便利なタイプに変わりありませんが、厚めのシムはシムリングや切欠きシムで対応する選択もアリだと思います。
ポイントまとめ
それでは、シムについて重要なポイントをまとめておきます。
ポイント
- シムとは「詰め物」で精度調整するときに使用する
- シムの選定ポイントは、作業性、使用環境、再現性、の3つで判断する
- シムは、材質、形状、厚さ、の3つの要素で使い分ける
以上3つのポイントです。
*引き続きこちらの記事もご覧ください。
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【設備】汎用性のあるシムを使いこなす【シムリングと切欠きシム】
続きを見る
*シムリングの購入はこちらから
*シムロールの購入はこちらから
*切欠きシムの購入はこちらから
関連記事:【精度測定/精度調整】
以上です。