今回は「再現性は機械装置に必要」についての記事です。
私は部品の精度や機械装置の測定をすることが多いのですが、毎回違う形の部品や機械装置なのでその度に測定する方法を考えています。そういった状況だと、測定を忘れてしまったり測定値に矛盾が発生したり測定値の信憑性が低いなどの問題が起きやすくなります。なぜそうなるのか?と言えば、測定に重要な再現性と測定すべき基本要素を理解していないからと言えます。
そこで今回の記事では測定のテクニックではなく、どのような考えで測定をしたらよいのか?について再現性と測定が必要な基本要素をまとめておこうと思います。
記事の目次
再現性は機械装置に必要
再現性とはなにか
機械装置を組立てていると、よく耳にする言葉に「再現性」があります。製造業に従事している方は一度は聞いたことがあると思いますが、まずはその意味を確認しておきましょう。
再現性の意味はコレです。
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再現性とは測定条件を毎回変更して何度も測定したときの同じ値である度合い
類似の用語に繰返し性がありますがこんな意味です。
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繰返し性とは測定条件が毎回同じで何度も測定したときの同じ値である度合い
メモ JISで定義されている再現性
JIS Z 8103では再現性にいて下記のように定義されています。
再現性 測定条件を変更して行われた,同一の測定量の測定結果の間の一致の度合い
繰返し性 同一の測定条件下で行われた,同一の測定量の繰返し測定結果の間の一致の度合い
再現性と繰返し性の違いは測定条件が「同一なのか、違うのか」と言うことなのですが、実際のところ同一条件で測定(繰返し性)し結果が良好でも自動運転中に精度の検証を行ったら「測定値にばらつきが発生した」と言うことが結構あります。なので、私の場合は「測定条件を毎回変更して何度も測定したときの同じ値である度合い」=「再現性」で良否や問題点を判断することが多いです。
出典:測定精度に関する用語の定義 繰返し性 ・再現性に関する用語の対照表
さて、この再現性は機械装置にとって非常に重要なことと考えていますが、それにはこんな理由があるからです。
再現性が重要な理由はコレです。
- 安定した製品を作り続けるため
- 機械装置が正しく動き続けるため
この理由と、私の今までの経験を合わせるとこんなことが言えます。
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再現性の測定は最も重要なことで再現性が高ければ機械装置の性能が高い
機械装置の組立にとって、図面寸法通りに精度よく組み立てることは重要なことですが、最終的に再現性がどの程度なのか?は最も重要なことです。
再現性の必要性
再現性は重要なのにも関わらず、実際の機械装置の組立では再現性の測定を忘れていたり、そもそも再現性の考えがなかったりすることがあります。
なぜ再現性を測定しない、確認しないのか?こんな理由があります。
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測定に時間がかかるし、どこを測定すればよいか分からない
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再現性の測定を行わなくても機械装置は組立てることができる
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試運転でトラブルなく動いていれば、問題ないので測定して数値化する必要がない
私も多くの機械装置を組立ててきましが、確かに再現性の測定は非常に手間がかかる作業ですし、再現性の測定をしなくても図面通りに組み立てることはできるし、図面通りに精度よく組立ができていれば稼働後の問題も起きることはあまりありません。
とは言え、やっぱり「実際に動かしたらこれぐらいの精度です」は大切なポイントとなります。
つまり、再現性の必要性はコレだと思うんです。
- 性能の評価
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精度の保証(品質の保証)
機械装置にできることは再現性に関わってくることですから、機械装置の評価や保証のために必要不可欠です。その他にも測定することによって、トラブルが起きていなくても想定外の状態になっていることが分かるかもしれません。さらに言えば、永久的に精度に変化がなければよいですが稼働すれば劣化するわけですし、保全作業によって精度に狂いが発生するかもしれませんから、そのような場合には再現性の値は判断の指標になります
ですから、再現性の測定は機械装置の組立て途中や試運転や出荷前には必ずやっておくべきことと言えるのではないでしょうか。
不確かさと正確さと精密さ
再現性を測定して得られた値を分析するときに重要な考え方があります。
再現性の分析に必要な考え方は3つです
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不確かさ・・・測定値の全体的なばらつきやその度合い
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正確さ・・・測定値が基準値にどれだけ近いかやその度合い
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精密さ・・・測定値のばらつきが極めて少ない状態
メモ JISで定義されている正確さ精密さについてはこちら
JIS Z 8103では下記のように定義されています。
不確かさ
- 合理的に測定量に結びつけられ得る値のばらつきを特徴づけるパラメータ
正確さ
- かたよりの小さい程度。備考 推定したかたよりの限界の値で表した値を正確度,その真の値に対する比を正確率という
精密さ,精密度
- ばらつきの小さい程度
再現性の3つの考え方
この3つをごちゃ混ぜにして考えないように、分析するときには区別してそれぞれの考え方で判断すると、何が悪いのか?どのような傾向があるのか?どうすれば良いのか?が見えてきます。
理想は精密で正確な状態なのですが、実際にはうまく行かないことが多いです。そんな時は、精密さを高めることを考えて、次にメカ的または制御でオフセット(補正)することで正確さを向上させるように進めるとスムーズです。
参考
*精度の不確かさについてはこちらの記事をご覧ください
-
測定値のばらつきや矛盾は測定の不確かさにある【考え方の基本】
続きを見る
*測定したデータの分析についてはこちらの記事をご覧ください
-
機械装置の評価と分析【標準偏差と正規分布で確率を求める】
続きを見る
静的精度と動的精度
精度を測定する条件として「測定するモノの状態がどうなのか?」と言うことも理解しておかなければなりません。
測定するモノの状態とはコレのことです。
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静的精度・・・測定するモノが無負荷状態のときの精度
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動的精度・・・測定するモノが運動状態や負荷がかかった時の精度
この中でも、動的精度が重要視される傾向がありますが、それは機械装置は動くことが前提なので、様々な部分が運動状態で負荷がかかった時に精度が悪いとなると、安定した製品を作ることも正しく動き続けることもできないからです。
とは言え、動的精度は静的精度の上に成り立っていることなので静的精度も十分大切なことです。なので、動的精度を重要視するあまり静的精度をないがしろにして本来あるべき姿を見失わないように気を付けましょう。
機械の基本要素を測定する
機械装置が正しく稼働するために基本となるのが「直進運動」と「回転運動」であり、それらの「制御」です。
そこで、直進運動と回転運動と制御の状態を「測定」「調整」して正しい状態にすることが必要となるわけですが、一体どのような要素を測定しなければならないのか?まとめてみます。
測定が必要な基本要素はコレです。
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真直度・・・どれくらい真直ぐなのか
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平面度・・・どれくらい平らなのか
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直角度・・・基準に対してどれくらい直角なのか
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平行度・・・基準に対してどれくらい平行なのか
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回転精度・・・回転したときの変位量はどれくらいか
これらの要素はあくまでも基本となる要素なので、必要に応じて測定すべき箇所の検討は必要です。
もし「これでは良くわからない」と言うことなら、「X、Y、Z、Θ」にあらわされる「座標系」を測定する部分にに当てはめてイメージするとわかりやすくなります。
測定要素の座標系
上記で紹介した「測定が必要な基本要素」の精度が規定値に収まっている状態になったとしても、まだ安心はできません。なぜかと言いますと、実は基本要素の精度が出ている条件のもと、さらに重要になってくる精度があるのです。
さらに重要になる精度はコレです。
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位置関係・・・図面寸法の位置関係になっているか、なるのか
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停止精度・・・停止精度にばらつきはあるのか、狙った位置に停止するのか
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運動精度・・・運動をしたときの精度のばらつきはどれくらいか
いくら基本要素の精度が出ていても、それぞれの「位置関係」「停止精度」「運動精度」が悪ければ、その機械装置は安定した製品を作ることも正しく動き続けることもできないのです。ですから、この3つの精度は忘れずに確認してく必要があるでしょう。
再現性と機械の基本要素のポイントまとめ
それでは、再現性と機械の基本要素について重要なポイントをまとめておきます。
ポイント
- 再現性とは「再現性とは測定条件を毎回変更して何度も測定したときの同じ値である度合い」
- 再現性は機械装置の評価や保証のために必要不可欠です
- 測定には基本要素だけでなく、それぞれの要素の位置関係、停止精度、運動精度も重要で、そのすべての測定に再現性が関わってくる
以上3つのポイントが大切です。参考にしてください。
参考
*こちらの記事も併せてご覧ください
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ゼロを目指して組立てる理由【妥協したら成長停止】
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関連記事:【精度測定/精度調整】
以上です。