今回は「LMガイドの従動側の平行出しを素早く行う方法」についての記事です。
LMガイドは精度が良い直動部品ですから、組立てるときには精度に細心の注意を払いたいものです。しかしそのためには、組付け方法についてしっかりと理解しておく必要がります。
今回の記事では、LMガイドについての基礎情報の解説と、ダイヤルゲージを使用した素早く組み付ける方法である、「LMガイドの両端の数値を揃えて仮締めしておく」と言うことについてまとめておこうと思います。
LMガイドとは
LMガイドは、機械装置には欠かせない直動部品です、実際に取り扱ったことがある人も多いことでしょう。
今回の記事のテーマである、「LMガイドの平行出し」について話を進める前に、まずは「LMガイドとは何なのか?」について確認しておきます。
引用:THK 5分でわかるTHK
LMガイドとは、「Linear(直線)Motion(運動)Guide(案内)」の略で、機械要素部品の一つとして、機械を真っ直ぐ動かすときの案内部分に使われています。
引用:THK直動システムサポートブック LMガイドの特徴
LMガイドの特徴
- 上下、左右からの荷重を負荷できる
- 理想的な転がり案内の為ため摩耗が極めて少ない
- LMガイドか取付けられるベース加工、組付けから生じる真直度、平坦度、平行度などのミスアライメントを平均化して吸収する特性がある
このような特徴があるのですが、LMガイドの精度は等級によって区別されているので、それによって組付けに使用する測定器の分解能にも注意が必要です。
出典:THK LMガイド カタログ
ここまでで、LMガイドは非常に高性能な直動部品であることが分かったと思います。実際にLMガイドを組み付けている組立工の私も、真直度、平行度の再現性が良く精度が高い直動部品だと実感しています。
走り平行度の平行出し方法
LMガイドの平行出しの方法にはいくつかのやり方があります。
平行だしのやり方
-
ダイヤルゲージを使用し測定しながら平行出しする
-
LMブロックのテーブルをスライドさせながら平行出しする
突き当ての基準面が有る/無しでも状況は違いますが大まかには上記の2通りに分類できます。
それでは、平行出しをするイメージ図を下記に示しますのでご覧ください。
この2通りの方法にはどのような違いがあるでしょうか?下記に一覧でまとめてみます。
*2つの方法を比べる
ダイヤルゲージ | テーブルをスライド | |
芯出し工数 | 多い | 少ない |
精度 | 数値で芯だしが出来る | 数値で管理できない |
測定器の必要性 | ダイヤルゲージ/マグネットスタンドが必要 | 手道具だけで出来る |
このような違いや特徴がありますが、私は新規で組立る場合にはダイヤルゲージを使用する事を推奨しています。
その理由には下記の2つがあります。
-
精度の保障
-
精度が出る構造/部品であるかの確認
この2つの目的でダイヤルゲージを使用します。やはり新規の機械/装置ですから精度の保障は欠かせませんね。
もしダイヤルゲージで測定した結果、平行度に問題があれば原因を追究し「部品が悪いのか?」「LMガイドが悪いのか?」状況に応じて対応します。
また、現場での部品交換や保全作業であれば「精度が出ていたはず」「精度が出るはず」ですからテーブルをスライドさせる方法は有効です。
補足 取付面の状態
LMガイドを組立てる時には、取付け面の状態が非常に大切です。
それは、LMガイドは取付け面の精度に倣うためで、取付け面の平面精度、真直度はもちろんのこと、ごみ、打痕、キズはあってはなりません。
平面度や真直度は機械加工の精度に左右されてしまうので、組立段階での修正は困難ですが、ゴミ、打痕、傷は油砥石を使って修正ができますので状況に応じて砥石をかけましょう。
参考
*油砥石の使い方はこちらの記事をご覧ください
-
組立における油砥石の使い方と注意点【オイルストーン】
続きを見る
基準側/従動側の平行出しを素早く行う方法
LMガイドの平行出しが「上手くいかない」「時間が掛かる」「何度も測定と締め付けを繰り返さないと出来ない」など不満を持っている人もいると思います。
そこで、普段私が実践している、後戻りが少なく素早く平行出しが出来る方法を紹介します。
今回の平行出しの前提として、LMガイドの基準側の固定は完了をしておいてください。
-
突き当て基準面に密着させて固定する
-
突き当てが無い時には、平行の基準がとれる面からダイヤルゲージなどで平行出し、固定をする
それでは平行出しを素早く行う方法の手順を下記に示します。
-
LMガイドの両端を測定する
-
両端の数値を揃えてねじを仮締めする。この時にねじが穴の中心である事が望ましいです。 *両端以外のねじは締めてはいけません
-
どちらかの端から順番に数値をそろえながら仮締めしていく。
-
LMガイドの全長の半分を過ぎたあたりで、END側端の仮締めを開放してフリーにする。
-
引き続き、数値をそろえながら端まで仮締めしていく。これで、仮の平行出しが完了。
-
確認の為、端から端まで測定して問題なければ本締めします。
-
本締め後、最終確認でもう一度測定し完了です。
この方法の一番重要なことは、「初めにLMガイドの両端の数値を揃えて仮締めしておく」です。点と点を結んで基準側LMガイドと平行の線を作る、と言うイメージです。
下記のイメージ図を参考にしてください。
後戻りが起きやすい方法
私が実際にやってみて、おすすめできないやり方は「どちらかの端から順番に測定/締付をおこなう」です。
一見すると上記で紹介した方法と変わらないのでは?と思うかもしれませんが、そうではありません。
基準側との平行をおおよそで揃えておかないと、調整シロがなくなって調整限界に陥る可能性があります。それだけでなく、平行出しが出来たとしてもLMガイド間のピッチも図面寸法との誤差も大きくなる場合があります。
補足動画
下記はNSKのLMガイド組付け動画です。より細かなイメージがつかめると思いますので参考にしてくだい。
余談
LMガイドを使用する構造には様々なタイプがあります。例えば、基準側と従動側のLMガイドの取付ベースフレームが独立していて、LMガイドのピッチも2000mm以上、全長は10000mm(10m)だったりするものがあります。こんな場合でも、基本的には今回ご紹介した手法で作業をおこないますが、初期設定としてベースフレームのレベル/水平/鉛直/ピッチ/真直度などを適切にしておくことが必要になります。構造にもよりますがそれなりの技量が必要になります。
参考ですが、私の実績では上記の状況でLMガイドの平行度は0.1mm以下でした。
どんな順番で、どんな道具で、どんなやり方で精度を出すのか?組立工の技量が試されます。
参考
*こちらの記事も参考になります
-
LMガイドの高さ平行度を測定する方法【忘れがちな精度】
続きを見る
*LMガイドの購入はこちらか
*精度の考え方を学ぶのにはこちらの本がおすすめです。
*関連記事:【直線運動の要素】
以上です。