今回は「メカロックやパワーロックの締付け順番」についての記事です。
軸の締結として使用されるメカロック、締結部品なのでスリップが起きる事態は避けたいところです。
しかし、実際にはメカロックの組付け不良によって、滑りが起きたり滑りによって噛みこみや破損が起きてしまうことがあります。
私も過去にトラブルに遭遇したことがあり、今回改めてメカロック/パワーロックの組付けに関するポイントをまとめておこうと思います。
記事の目次
メカロックやパワーロックとは
メカロックとは、摩擦式の締結部品(軸と部品を固定)でバックラッシュはありません。
メーカーや種類によって部品構造に違いがあり、良く耳にするモノでは、メカロック(アイセル)パワーロック(椿本チエイン)などがあります。
例えばこのような外観
構成部品と色々な呼び名
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ボス
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ハブ
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内輪
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外輪
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アウターリング
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インナーリング
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テーパーリング
メーカーにより、呼び名や構成部品に違いはありますが、基本的には構成部品同士のテーパー面の摩擦と、固定する軸と構成部品との摩擦で締結されます。
組付けの注意点
メカロック/パワーロックの組付けは指定された方法があり、それを無視した方法で組付けると破損、滑りが発生する危険性があります。
組付けポイントは下記の3点です。
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締付けトルク
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締付けと緩めの順番
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オイル/グリスの塗布
このポイントを守らないと破損や滑りが発生します。
締付けトルク
どのような部品/ねじであっても締付けトルクは重要です。
ですが実際の作業においては、全ての部品/ねじをトルク管理して締付ける事は行われてはいませんし、そこまでの必要があるのか?と言う事で現実的ではありません。
そう言った実情のなかで、メカロック/パワーロックは締付けトルクの管理が必要とされている部品になります。摩擦を均一で一定の摩擦力とする為には適切な締付けを行う必要があります。
締付けトルク
締付けトルクはメカロック/パワーロックの素材(アルミ、スチール、ステンレス)やねじのサイズによって、違いますのでその都度カタログや取扱説明書で確認してください。
引用抜粋:椿本チエイン パワーロックカタログ P93
私の独り言
ところがそうは言っても、メカロック/パワーロックの締付けトルクを管理して組付けている作業者は多くは無いと思います。例えば、現場の保全作業でトルクレンチを使い締め付けている場面を私は見たことがありませし、作業スペースが狭くトルクレンチが入らない場合も多々あります。ですから、余程の重要な締結部分でない限りトルクレンチを使う事は無いのかもしれません。しかし、これはあくまでも「そういった現実がある」と言う話しであって、「トルク管理をしなくて良い」と言うことではありません。
締付けと緩めの順番
私は、締付けトルクよりも締付けと緩めの順番の方が重要だと思っています。それは、内部構造に起因する為です。
内部はテーパー部品の食い込みで摩擦を発生させますが、テーパーがゆえに締付け時に安定性がなく「食い込みやすい所に食い込む」「食い込みにくい所には食い込まない」となるので締付けと緩めの順番が適切でないと、テーパー部品が斜めになり変形やカジリを発生させる事になります。
締付けポイントはコレです
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数回に分けて均等に締付ける
参考
*ねじの締め付けについてはこちらの記事を参考にしてください ⇒ 部品やフランジのボルトを締める順番【歪みと漏れの関係性】
テーパー部品が斜めになる イメージ
メーカーのカタログ/取扱説明書に下記のような記載があります。確認しましょう。
引用抜粋:アイセル メカロック・カップリングカタログ P20メカロック
オイル/グリスの塗布
摩擦式の締結部品にグリスを塗布していいのか?と思われるかもしれません。
これはねじも同じ事が言えますが、締付け初めから締付け完了(固定する)までの過程では滑りが良い方が均一な摩擦と一定の摩擦力を発生させる事が出来ます。
締付け完了までの過程で徐々に摩擦抵抗が増えていくわけですが、その時に部分的に「かじり」が起きてねじの締付トルクが適切でも、実際にはねじと部品の全ての接触面(摩擦しているところ)が均一で一定では無いと言うことになります。
オイル/グリスの注意
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摩擦力が低下するオイル/グリスは使用禁止。おすすめは、万能なリチウムグリス
ただし、オイル/グリスの塗布が必要のないモデルもあります。型式を必ず確認しましょう。
各社、カタログに記載がありますが、シリコン、モリブデン系や極圧添加剤のオイル/グリスは摩擦力が低下し締結後のスリップの原因なる為使用禁止としています。
私は、入手が簡単なリチウムグリスを塗布しています。また、オイル/グリスの塗布をしてはいけないモデルもありますので、思い込みで作業をしないように確認しましょう。
引用抜粋:アイセル メカロック・カップリングカタログ P20メカロック
引用抜粋:椿本チエイン パワーロックカタログ P97注意事項
塗布の注意
グリスを塗布する場合は、オイルよりも厚く塗ってしまいがちですので、薄く塗布するように注意しましょう。
沢山塗布しても、余分なグリスがはみ出るだけで意味はありませんし、はみ出たグリスを拭き取れない場合にはグリスに鉄粉やゴミが付着しますのでトラブルの原因になるかもしれません。
このように塗布します イメージ
内部部品を組付ける時に
私は、メカロック/パワーロックの内部部品を組み合わせる時に注意していることがあります。
それは、「スリット部分」同士を重ねないです。必ず、「スリット部分」を最大にずらして組合わせています。締付けた時に「割れ部分」が広がったり縮まったりするのですが、その時に割れ同士が「かじって」しまうかもしれないと思っているためです。
ただしタップと穴位置によっては、スリット位置が重なってしまうモノもありますので、その場合にはは仕方がありません。
スリットの位置 イメージ
*下記の画像はスリット同士が直接触れない構造ですので参考程度としてください。
損傷事例
私は、過去にパワーロックのスリップ現象の対応をしたことがあります。
パワーロックを分解したところ、スリップにより軸の偏摩耗と鉄粉まみれになっていました。この時は新品部品が無かったので、軸とパワーロックの部品の整備/修正をして組み直しました。その後、問題は起きませんでした。
原因について椿本チエインに問い合わせてみました
私の事例を問い合わせてみました。
椿本チエインお問い合わせ担当者の回答
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締付けトルク、締付けと緩めの順番、オイル/グリスの塗布の全て重要だが、締付けトルクはトルクレンチを使用していなくても締まっていればスリップする事は余程ありえないと思われる
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今回の事例の場合は、締付けの順番とオイル/グリスの方が原因となっている可能性が高い
このような回答でした。しっかりと調査したわけではなく口頭での問い合わせでしたので原因が確定できたわけではありませんが、メーカー指定の方法の重要性は再確認しました。
補足 滑りの確認方法
メカロック/パワーロックの組付け完了した際には、軸からプーリーまで縦一本線のマーキングしておくと良いです。
このマーキングによって「軸とのズレ」か「プーリーとのズレ」などのスリップをしたかどうか?の確認ができます。
メカロックやパワーロックのポイントまとめ
それでは、メカロックやパワーロックについて重要なポイントをまとめておきます。
ポイント
- 摩擦式の締結部品(軸と部品を固定)のためバックラッシがない
- ボルトは規定値の締め付けトルクで締め付ける
- 数回に分けて均一に締め付ける
- リチウムグリスを薄く塗布して組付けると均一な摩擦を得ることができる
- スリップの確認のために軸とメカロックなどに縦にマーキングをするとよい
以上5つのポイントを覚えておきましょう。
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*私がおすすめするトルクレンチはKTCのレジラチェです。
関連記事:【締結要素】
以上です。