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【潤滑油/グリス/ケミカル 】

グリースの増ちょう剤の種類と特徴【ちょう度の使分けと注意点】

2021年3月22日

 

今回は「グリースの増ちょう剤の種類と特徴/ちょう度の使い分けと取扱注意点」についての記事です。

グリースは機械装置の潤滑として定番で、例えば、ボールねじ、LMガイド、ベアリング、チェーンなどに使用しますよね。「グリース給油しておいて」なんてフレーズもよく聞かれますが、しかし実際にはどうでしょうか。グリースの種類や特徴を把握して適切に使用できているでしょうか?

グリースの基本といえば、欠点が少なく万能な「リチウムグリースのちょう度2号」なので、グリース=リチウムグリースと思っている人もいるかもしれません。しかし、実際には使用する状況や環境によってグリースを使い分けるべきで、機械装置をトラブル低減には必要なことです

今回の記事では、グリースならではの増ちょう剤とちょう度についての解説と、グリースの取り扱い注意点を紹介しようと思います。

 

グリースの増ちょう剤の種類と特徴

グリースとは

グリースとは、潤滑油に増ちょう剤と呼ばれる、三次元の網目構造の物質を加えて潤滑油を半固形にした潤滑剤です。スポンジに油を浸みこませた状態がグリースとするとイメージがし易いかもしれません。

 

グリースの成分の割合はこのようになっています。

  • 基油 80%~90% ・・・潤滑性、耐熱性、低温性、対樹脂製 酸化安定性 に影響
  • 添加剤 0.5%~10% ・・・極圧性、耐摩耗性、酸化安定性、防腐性 に影響
  • 増ちょう剤 3%~15% ・・・耐熱性、耐水性、せん断安定性 に影響

 

グリースは成分だけでなく硬さ/柔らかさも重要です。

  • ちょう度・・・グリースの硬さの単位

 

グリスの中身

グリスの構成表

 

今回の記事はグリースの特性と使用用途を考え下記の3点について話を進めていきます。

  1. 増ちょう剤の種類と特徴
  2. ちょう度と使い分け
  3. グリースの取扱の注意

 

増ちょう剤の種類と特徴

増ちょう剤とは、三次元の網目構造の物質ですがその物質には多くの種類があり、それぞれに特徴があります。

 

ピロ軸受けに耐水性と極圧性が優れているグリスを塗布

ピロ軸受けに耐水性と極圧性が優れているグリスを塗布しています。

パラフィン鉱油(基油)にアルミニュウムコンプレックス(増ちょう剤)のグリースです。

軸受けのグリス

 

増ちょう剤の種類と特徴について、下記の3点について解説していきます。

  1. 石けん系と非石けん系の違い
  2. 増ちょう剤の種類
  3. 増ちょう剤の特徴

 

1.石けん系と非石けん系の違い

増ちょう剤は製造方法の違いにより区別されています。

  • 石けん系・・・カルシウム、アルミニュウム、リチウムなどの金属元素をケン化して得られた金属石けんを石けん系と言う
  • 非石けん系・・・有機化合物(PTFEなど)と無機化鉱物(ウレアなど)はケン化反応がないので非石けん系と言う。金属元素を含まないので酸化がなく耐熱性が高い。

*ケン化とは、基油と油脂や脂肪酸と塩基のカルシウム、アルミニュウム、リチウムなどを水酸化物などで混ぜて加熱することで加水分解(水が作用して起きる分解)する化学反応のことです。このケン化反応によって石けん(半固形))が得られます。

 

グリースの製造方法を簡単にまとめると下記の4工程となります。

  1. 反応行程・・・ケン化反応によって石けんを作る
  2. 混合行程・・・基油と添加剤の混合
  3. ミーリング行程・・・石けんの繊維の均一化と基油の分散
  4. 脱泡行程・・・気泡の除去

*石けん系の製造は反応行程から、非石けん系(ケン化反応がない)は混合行程からの製造となります。

 

2.増ちょう剤の種類

増ちょう剤は石けん系、非石けん系ともに多くの種類がありますが、今回は代表的な増ちょう剤を取り上げてまとめておきます。

 

石けん系グリース

  • カルシウム
  • アルミニウム
  • ナトリウム
  • リチウム
  • カルシウムコンプレックス
  • アルミニウムコンプレックス
  • リチウムコンプレックス

*コンプレックス(複合)の名が付く増ちょう剤は耐熱性向上のため、2種類以上の化合物(脂肪酸、有機酸)が加えられています。

 

非石けん系グリース

  • ポリウレア
  • PTFE
  • カーボンブラック

*非石けん系のグリースは石けん系のグリースよりも耐熱性の向上が図られています。

 

ここに記載していない増ちょう剤もありますが、製造メーカー独自のものなのか、、、他の増ちょう剤と比べられるほどのデータがないので記載していません。そのような増ちょう剤はメーカーカタログの商品説明や使用用途などから把握するしかないようです。

 

3.増ちょう剤の特徴

まずは増ちょう剤の特徴一覧をご覧ください。

 

*増ちょう剤の特徴一覧・・・おおよその平均値としています。製造メーカーの公表値には差異があります。

最高可能温度 耐熱性 耐水性 せん断安定性
カルシウム 70 ×
アルミニウム 80 ×
ナトリウム 120 ×
リチウム 130
カルシウムコンプレックス 150
アルミニウムコンプレックス 150
リチウムコンプレックス 150
ポリウレア 180
PTFE 250 ◎+ ◎+
カーボンブラック データなし データなし データなし
  • 耐熱性・・・耐熱性が低いと高温時に軟化や酸化劣化が起きたり、潤滑性が低下する
  • 耐水性・・・耐水性が低いと水を吸収して、潤滑性、耐錆性が低下する
  • せん断安定性・・・せん断安定性が低いと網目構造が破壊されやすいので軟化したり油が分離する

 

それでは、それぞれの増ちょう剤の特徴を説明していきます。

 

カルシウム

網目構造の安定には1%前後の水分が必要で、耐水性に優れているが耐熱性に乏しい。80度以上で水分が分離するため網目構造が破壊されていくことで、基油が分離しグリスとしての役目を失う。

 

アルミニウム

耐水性と金属への粘着性に優れているが耐熱性が劣っている

 

ナトリウム

耐熱性に優れているが、高温使用後に冷却すると硬くなる。せん断安定性と耐水性が悪く水に溶け乳化する。

 

リチウム

耐水性、耐熱性、せん断安定性に優れている万能グリスで欠点が少ない。幅広く使用可能なのでグリス=リチウムグリスと言われるほど普及している。

 

カルシウムコンプレックス

耐熱性、耐水性、せん断安定性に優れているが、高温で硬化する

 

アルミニウムコンプレックス

耐熱性、耐水性、極圧性、せん断安定性に優れており、配管抵抗が少ないため圧送性(網目構造が壊れやすい)が良い。高温状態が続くと軟化する。

 

リチウムコンプレックス

リチウムグリースよりも耐熱性を向上させたグリスで、耐熱性、耐水性、防錆性に優れています。

 

ポリウレア

ポリウレアとはウレア結合の樹脂化合物の増調剤で、耐熱性、耐水性、せん断安定性が優れています。高温時の安定性が高く油が分離しにくい

 

PTFE

耐熱性、耐水性、せん断安定性に優れており、それ以外にも耐薬品性が高くゴムを侵さない。

 

カーボンブラック

カーボンブラックは炭素粉末で、導電性、耐熱性、耐水性、耐薬品性に優れていています。

 

増ちょう剤の種類と特徴まとめ

ここまでで増ちょう剤の種類は数多くあり、またそれぞれに特有の特徴があることが分かったと思います。ただここで注意しておきたいことがあります。

それは、増ちょう剤はグリースの 耐熱性、耐水性、せん断安定性 に影響するのですが、グリース全体の特徴として考えると増ちょう剤の種類だけでグリースの特徴を判断できるわけではなく、基油と添加剤と増ちょう剤すべてが影響しあってグリースの特徴が決まるということなのです。

ですから、グリースメーカーのカタログで特徴をみますとメーカーによって大きく違うことが見受けられます。

つまり、おおよその判断の基準にはなるが、グリースの特徴はそれが絶対ではないと言うことです。特に特殊環境で使用する場合や、摩耗の対策でグリースの種類を変更するときなどはメーカーに問い合わせてみるのが確実だと思います。

 

出典:オメガグリースカタログ

オメガグリスの一覧

オメガグリスの一覧

オメガグリスの一覧

 

ちょう度と使い分け

ちょう度とは、グリースの硬さ/柔らかの単位です。ちょう度の測定は、グリースに円錐形の重り(規格で決まっている)を落として5秒間で沈む量(mm)を10倍した数値です。

*ちょう度は潤滑油(基油+添加剤)の粘度に影響されます。

 

グリースの硬さ

ちょう度2号で1年使用したグリースの状態

1年使用したグリースの状態

 

それではちょう度の特徴や使用例を下記の一覧で確認してください。

 

*ちょう度と特徴一覧

JIS番号 NLGI番号 ちょう度範囲 硬さ 使用例
000号 000 445~475 半流動状態 精密機械など
00号 00 400~430 半流動状態 精密機械など
0号 0 355~385 非常に柔らかい 集中給油、温度が低い環境
1号 1 310~340 柔らかい 集中給油、温度が低い環境
2号 2 265~295 普通 軸受け、リニアガイドなど広く使用
3号 3 220~250 やや硬い やや温度が高い部分
4号 4 175~205 硬い グリースで密封する場合など
5号 5 130~160 非常に硬い 高速、高温環境
6号 6 85~115 非常に硬い 高速、高温環境

*NLGI( National Lubricating Grease Institute)とは、アメリカグリース協会のことでちょう度を定めています。

 

一般的に特に指定がなければ2号を使用します。使用する環境が特殊であったり、2号を使用してみて改善を試みる場合は状況に応じてちょう度を変更してもいいと思います。

ただ注意として、ちょう度は硬いと抵抗と発熱の原因になり柔らかいとグリースの流出と油膜切れが起きることが予想されますので、極端に硬さを変える場合には注意しましょう。

 

グリースの取り扱いの注意

ここまでは、グリースの特徴や使用用途を左右する増ちょう剤とちょう度についてまとめてきましたが、実際にグリースを使用するときには注意しておきたいことがありますので紹介しておきます。

 

注意しておきたいことは下記の5つです。

  1. 異物の混入に注意する・・・潤滑性の低下、部品の損傷につながる。混入が疑わしいものは廃棄
  2. 種類が異なるグリースを混ぜないが基本・・・軟化、網目構造の不具合が起きる。混ぜられる増ちょう剤の組み合わせがある。
  3. 使用可能温度を超えないようにする・・・網目構造が破壊されて軟化したり溶解する
  4. 長期間(何年も)保管しない・・・増ちょう剤と基油が分離することがある
  5. 空気を混ぜない・・・給油配管に空気が入ると圧送できなくなる

 

この5つは非常に重要で、グリースが入っていれば潤滑は大丈夫、、、と安易な考えで使用しているとトラブルを招くかもしれません。

例えば、部品を綺麗に洗浄してから給油する、古くなったグリースは使用しない、基油が分離していたら使用温度を疑ってみる、グリースガンにグリースを詰める(カートリッジも)ときに空気が入らないように注意するなど、、、、少し気を付けるだけで結果は違ってくると思います。注意点を十分把握して適切な使用を心がけましょう。

 

参考動画

グリースの参考動画を紹介しておきます

 

 

まとめ

今回は、グリースの増ちょう剤とちょう度と取り扱いの注意についてまとめてみました。グリースは機械装置の潤滑、メンテナンスには欠かせない潤滑剤です。グリースの潤滑が適切にできていれば部品の寿命は大きく違ってきますから、機械装置が壊れない状態が続けば生産性の向上だけでなく保全費用の節約にもなることでしょう。参考にしてください。

 

*潤滑剤の基礎におすすめ

 

参考文献:サイト:【協同油脂株式会社】【シェル ルブリカンツ ジャパン株式会社】【オメガグリス モリブデンBP株式会社】【シェル ルブリカンツ ジャパン株式会社】

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以上です。

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