今回は「錆させない方法は防錆紙や防錆剤や防錆フィルムを使用すること」についての記事です。
金属や非金属(アルミニウムや銅)は塗装やめっきのような表面処理がされていないと錆びたり腐食してしまいます。通常は表面処理をするのですが一時的な保管や表面処理不要で使用したい場合には、表面処理以外の防錆処理が必要となります。
そのような場合には、古くから防錆油を塗布する方法があり「油を塗ったら錆びない」と多くの人が知っていることでしょう。ところが防錆油は安価なのですがデメリットもあり、防錆油以外の防錆方法として気化性防錆紙、気化性防錆材、気化性防錆フィルムなども普及しています。
そこで今回の記事では、気化性防錆剤の特徴や種類についてまとめておこうと思います。
記事の目次
錆させない方法は防錆紙や防錆剤や防錆フィルムを使用すること
防錆の必要性
皆さんは防錆とは何か知っていますか?
防錆(ぼうせい)とは、金属が錆(腐食)に侵されないようにする処理のことです。
参考
*腐食についてはこちらの記事で解説しています。
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腐食のカギは金属の安定【腐食と錆びの形態と種類】
続きを見る
なぜ防錆が必要か?と言いますとその理由はコレです
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錆は酸化還元反応によって金属を朽ちさせてしまう
多くの人は経験上「錆はよくないこと」と理解していると思います。
私にとっても錆は非常に厄介な存在で、もし錆が発生しようものなら部品や測定器の精度は失われてしまうし工具や何かの構造物は正しく使用できないばかりか安全性も低下します。
だから、錆は敬遠される存在で「錆びないような対策 = 防錆」が必要になるのです。
錆には防錆油が定番
一般的に錆ないようにするためには「油を塗布する」「油を塗り付ける」が思いつくことでしょう。私も「錆びさせたくない金属には油を塗っておけばOK」って認識があります。
そもそも、金属が錆びないようにするためには、金属の表面に空気や水分などが触れて酸化還元反応が起きないようにすれば良いわけです。それには、入手しやすく安価な防錆油が定番で、塗布することで金属の表面に被膜を形成し錆を防ぐのです。
ところが防錆油は実際に使用してみるといくつか欠点があることに気が付きます。
防錆油の欠点はコレです。
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防腐油の塗布には時間がかかる
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防錆油の拭き取りはウエスや洗浄が必要になる
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防錆油の取り扱いは環境に良くない(クリーンではない)
このような欠点を考えますと、場合によっては防錆油は不向きであったり、使用できないことが考えられます。
防錆には防錆紙と防錆剤と気化性防錆フィルム
防錆油以外の錆対策にはどのようなものがあるでしょうか?
例えば、塗装やめっきのように表面処理によって金属の表面を被膜で覆う方法がありますが、それは防錆油のような一時的な錆対策とは目的が違うので除外しましょう。
参考
*めっきについてはこちらの記事で紹介しています
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代表的なめっきの分類と種類【電気と無電解と溶融】
続きを見る
ということで、防錆油の欠点を考慮して防錆油、塗装、めっき以外の防錆方法を考えますと、このようなモノがあります。
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気化性防錆紙
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気化性防錆材
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気化性防錆フィルム
これらの製品の共通点はコレです
- 塗布や拭き取りの手間がなく、処理が簡単でクリーンである
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気化性防錆剤VCI (Volatile Corrosion Inhibitor)が配合されていて、金属や非金属(アルミニウムや銅など)の表面に被膜を形成することで錆ないようにしている
*気化性防錆剤には独特の「におい」があるので、クンクンすると防錆剤が配合されているか?分かります。
気化性防錆紙と気化性防錆フィルム
部品や測定器などの梱包の中に入っている気化性防錆紙です。
ストレートエッジに気化性防錆フィルムをカットして袋にして使用しています
では、気化性防錆剤VCI (Volatile Corrosion Inhibitor)とはなんなのか?確認しておきましょう。
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常温で気化して金属や非金属の腐食を抑制する物質
そして使い方のポイントはこうなります。
- 金属や非金属(アルミニウム、銅など)の種類ごとに専用の気化性防錆剤があるので使い分けが必要(各メーカーによって使い分けの範囲に違いがあります)
- 「気化した防錆剤が外気へ逃げないように密封して使用する」 または 「金属を包んで(接触させて)使用する」
ここまでをまとめてみますと、気化性防錆剤は金属や非金属の表面に皮膜を形成し酸化還元反応を防いで錆びさせない、となります。
気化性防錆剤は防錆油よりもコストアップしますが防錆油の欠点を考えると非常に有効で、実際に身の回りの金属の梱包には防錆紙、防錆材、防錆フィルムが使用されていることが多くあります。
防錆紙と気化性防錆剤の特徴と違い
それでは気化性防錆紙、気化性防錆材、気化性防錆フィルムの3つの防錆剤を紹介しておきます。
気化性防錆紙
気化性防錆紙とは、錆を防ぐ成分(気化性防錆剤)を含ませた紙のことです。
気化性防錆紙の使い方は2つあります。
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密閉された梱包の中に同梱する
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金属や非金属を包んで使用する
密閉容器になかに同梱する場合は、小さくカットした防錆紙を入れるだけなのでコストも手間もそれほどかかりません。金属や非金属を包んで使用する場合は、コストと手間がかかりますが直接触れるので防錆効果があり密閉できない梱包に有効です
気化性防錆紙はこのような使い分けができるので一番使用率が高い防錆剤で、例えばストレートエッジのような測定工具の梱包に使用されています。
*今回はアドコート株式会社「アドパック‐G」と言う商品を代表例にします。
出典:アドコート株式会社 アドパック‐G(鉄鋼用含浸タイプ)
特徴
- JIS Z 1535に規定された試験に合格。
- 防錆力には即効性があり、防錆油などの塗布できない機械の細部まで気化性防錆剤が侵入し、錆の発生を防ぎます。
- クラフト紙に含浸されている気化性防錆剤が徐々に気化し、鉄表面に吸着することで錆の発生を抑制します。
- 防錆梱包を開封後すぐに製品の使用が可能です。(防錆油と異なり脱脂工程は不要です。)
- アドパック-Gには、クラフト紙ベースのGK-7(M)の他、ポリエチレンを片側ラミネートしたGP-7(M)があります。GP-7(M)は、包装内部からの気化性防錆剤の気化損失を防ぎ、防湿効果も加わって、防錆有効期間が長くなります。GK-7(M)には、ポリ袋などでの密封包装をお勧めします。
気化性防錆材
気化性防錆材とは、錆を防ぐ成分(気化性防錆剤)をパック状に詰めてあるタイプです。(外見は乾燥剤のようなイメージです)
気化性防錆剤の使い方
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密閉された梱包の中に同梱する
防錆材は密封容器に入れておくだけなので、金属や非金属を包んでおく必要がなく簡単に防錆ができます。逆に、密閉されていない空間では十分に効果が発揮されません。
城北化成の防錆材
*今回は城北化成の「ラン・ラン」と言う商品を代表例にします。
出典:城北化成 ラン・ラン
特徴
- 鉄、SUS、鋳鉄の他、銅、黄銅などの非鉄金属にも有効。
- 即効性で長期防錆。
- 取扱いが簡単。(包装内にポンとワンパック)
- 帰化ガスによる為、手の届かない細部まで防錆。
- 繰り返し使用可。
- グリース・油による防錆と比較して外観美麗。
- 脱脂溶剤不要の為、工程改善によるコストダウンならびに環境改善。
防錆機構図
気化性防錆フィルム
気化性防錆フィルムとは、梱包フィルムに気化性防錆剤を練りこんで配合してあるモノです。
触った感じは少し分厚くてゴアゴアしたタイプが多く、自動車のエンジンやミッションの部品の梱包に使用されているのを見かけます。
気化性防錆紙の使い方は2つあります。
- 金属や非金属を包んで使用する
- 金属や非金属を気化性防錆フィルムの袋の中に入れる
金属や非金属を包んで使用する場合は、防錆剤が外気に拡散してしまうので防錆効果が低くなりますが、気化性防錆フィルムの袋に入れる場合は、密閉ができるし真空梱包も可能となるので防錆効果が高くなります。
また、防錆紙のように粉塵が発生しないのでクリーン環境でも使用可能です。
特徴
- 【特長1】:さまざまな環境に対応する防錆性能
- 【特長2】:世界が認める優れた安全性
- 【特長3】:鉄だけではありません。マルチメタル対応
- 【特長4】:作業効率の向上とコスト削減
防錆フィルムの主な用途
- 電子基板や電子機器など
- ピストンリングなど自動車品など
- 各種金属製品(特に鉄製品)の梱包や網管・線材・ベアリング・金型・建築用金具・金属素材の輸送・保管梱包に
- 航空機用エンジン、プラント機器などの大型の機器など
- 組立部品・補給部品の輸送(国内・輸出)、長期保管。特にノックダウン用部品の輸出梱包に
ポイントのまとめ
それでは、錆させない方法について重要なポイントをまとめておきます。
ポイント
- 防錆油のデメリットは「塗布には時間がかかる」「拭き取りはウエスや洗浄が必要になる」「防錆油の取り扱いは環境に良くない(クリーンではない)」の3点です
- 防錆油のデメリットを改善した気化性防錆剤には「気化性防錆紙」「気化性防錆材」「気化性防錆フィルム」がある
- 金属や非金属(アルミニウム、銅など)の種類ごとに専用の気化性防錆剤があるので使い分けが必要(各メーカーによって使い分けの範囲に違いがあります)
- 気化性防錆剤の使用方法は「気化した防錆剤が外気へ逃げないように密封して使用する」 または 「金属を包んで(接触させて)使用する」
以上4つのポイントが大切です。参考にしてください。
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関連記事:【材料/溶接/加工/表面処理】
以上です。