今回は「エアハイドロシステムで空気圧を油圧に変換」についての記事です。
エアハイドロシステムはなかなか馴染の少ない動力源だと思います。現に私もこの業界に10年以上従事していますが、エアハイドロを使用した機械装置を組立てたことは過去に3度しかありません。
初めてエアハイドロを配管して試運転したときには、何度やっても動作せず試行錯誤しているうちに配管を外したら作動油が噴水になってあたり一面油だらけになったのが良い思い出です。その時の原因は「回路間違い」と「エアのかみ込み」がだったのですが、自分の未熟さと作動油を使うことのデメリットを痛感した瞬間でした。
そんな苦い思い出のエアハイドロシステムですが、今回の記事ではエアハイドロがどういったものなのか?について基礎情報を再確認しておこうと思います。
記事の目次
エアハイドロシステムで空気圧を油圧に変換
エアハイドロシステムとは
エアハイドロシステムとは、コンプレッサーで圧縮した空気圧(エアー)を油圧に変換して動力を得る制御方法です。
主に圧力増大と安定した制御が必要な状況で使用されるシステムです。大きな出力が必要となるときには供給する動力の圧力を高くする必要がありますが、空気圧を増圧する場合は増圧器で供給圧力を2倍~4倍に増圧するのに対して、エアハイドロは空気圧を油圧に変換することで最大100倍に増圧することができます。
参考
*増圧器についてはこちらをご覧ください。
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エアーの圧力を上げるために増圧器を使う【増圧弁とエアタンクの仕組み】
続きを見る
*空気圧と油圧の違いについてはこちら記事をご覧ください
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空気圧と油圧の特徴を比べる【空気圧と油圧の違い】
続きを見る
メリット/デメリット
空気圧を油圧に変換してアクチュエータ(シリンダ)を動作させることには、油圧ならではのメリット、デメリットがあります。
空気圧 ⇒ 油圧の変換のメリット
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低速動作が安定する
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停止精度が良い(中間停止ができる)
- 圧縮性がないので負荷変動がかなり少ない
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油圧ユニットが不要で油圧を動力にできる
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空気圧の供給から大きな出力を得ることができる
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増圧は【工場エアー0.5Mpa】 ⇒ 【油圧 最大50Mpa】
空気圧 ⇒ 油圧の変換のデメリット
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エアーを消費する
- 増圧するとストロークと速度が低下する
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作動油(タービン油)を使用するので作動油の取扱いが面倒
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空気圧システム(工場エア使用)よりはコストアップし、油圧システムよりはコストダウン
エアハイドロシステムのいろいろ
エアハイドロシステムを構築するためには、使用目的に応じた専用機器を使用することになります。
エアハイドロを代表する機器(*SMCのラインナップを参考にしています)
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エアハイドロコンバータ・・・空気圧から油圧へ等圧変換
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エアハイドロブースタ・・・空気圧から油圧に増圧変換
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エアハイドロユニット・・・エアハイドロ制御に必要な機器が一体化したもの
この他、「エアハイドロ用シリンダ」「エアハイドロ用制御弁」などもありますが、今回は割愛します。
それでは上記の3つの代表機器について、次項から紹介していきます。
空気圧から油圧への変換する機器
エアハイドロコンバータ
エアハイドロコンバータとは空油変換器のことで、空気圧を油圧に変換する機器です。コンバーターには作動油(タービン油VG32)を貯めておいてそこに空気圧を供給することで油圧をポートから供給することになります。増圧比は1:1なので出力増大ではなく油圧ならではの安定した動作(一定速度と停止精度)を得るために使用します。
エアハイドロコンバータの特徴をまとめますと、、、
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空気圧を油圧に変換
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エアハイドロシステムの一部に組込んで使用する
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増圧比は1:1なので増圧しない作動油を供給する
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増圧目的ではなく、安定した動作を得るために使用する
と言うことになります。
出典:SMC エアハイドロコンバータ CCTseries
エアハイドロブースタ
エアハイドロブースタとはエアを供給することによって、空気圧を油圧に変換しさらにパスカルの原理によって増圧した油圧を供給する増圧器のことです。
エアハイドロブースターの特徴をまとめると
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空気圧を油圧に変換
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増圧した油圧を供給
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増圧の度合いはエアの供給圧力を減圧弁で調整して調整する
と言うことになります。
また、エアハイドロブースタに直圧式と予圧式があるのでその違いについても説明しておきます。
直圧式のエアハイドロブースタ
直圧式のエアハイドロブースタは、オイルポット搭載なので省力モデルです。作動油の容量が小さいのでショートストロークに向いています。
出典:SMC エアハイドロブースター カタログ 直圧式
予圧式のエアハイドロブースタ
予圧式のエアハイドロブースタはエアハイドロコンバーターを併用するタイプです。
予圧式の特徴は、エアバルブの切り替えによってエアハイドロコンバータから油圧供給するか、エアハイドロブースターから油圧を供給するか、を切り替えることができることです。
予圧式をまとめますとこうなります。
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エアハイドロコンバータから増圧せずにシリンダに供給・・・低圧作動
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エアハイドロブースターから増圧した油圧をシリンダに供給・・・高圧作動
このような使い分けが可能です。
出典:SMC エアハイドロブースター カタログ 予圧式
エアハイドロユニット
エアハイドロユニットとは、空気圧から油圧に変換し制御する機器が一体化したコンパクトな機器です。
ユニットの構成は下記のようになっています。
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エアハイドコンバータ
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バルブユニット(ストップ弁、スキップ弁)
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流量制御弁(速度制御弁)
エアハイドロシステムの特徴をまとめますと、、、
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空気圧を油圧に変換
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速度制御ができる
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中間停止ができる
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スキップ送りができる
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増圧比は1:1なので増圧しない作動油を供給する
と言うことになります。
出典:SMC エアハイドロユニット カタログ
エアハイドロシステムの組立て注意点
エアハイドロシステムを組立てるときに注意しておきたい事がありますので紹介しておきます。
組立ての注意は下記の2つです。
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ねじ配管の漏れ対策
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作動油(タービン油VG32)のエアの嚙み込み
結構ありがちなことです。
ねじ配管の漏れ対策
油を使用するシステムに付き物なのことに「油漏れ」があります。
油が漏れるとこんなことが起きます
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公害
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火災
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清掃
空気圧の場合は、空気が漏れても圧縮空気の消費量が増えて圧力が低下する(経済的、安定制御の面ではNGです)くらいで害が発生することがありません。
そのため、組付け作業の感覚として、「これでいい」「これくらい大丈夫」と言ったいつものエア配管と同じよう油圧配管を施工してしまうので注意が必要なのです。
シールテープ
対策としては「シールテープ」と「液体ガスケット」を使用することとなりますが、これについては下記の記事で詳しく紹介していますので、そちらをご覧ください。
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ワンタッチ管継手のねじからエアーが漏る【プレコート加工の欠点】
続きを見る
作動油(タービン油)のエアの嚙みこみ
油圧システムでよくあることに、「作動油を入れたのに動かない、、、」なんてことがあります。
その原因には「作動油にエアが噛んでいる」ことが考えられます。
エアの嚙みこみや抜けにくくなるような配管や機器のレイアウト(油のタンクは高く設置、配管を短く、など)にすることも必要ですが、一番初めの立上げではエアの噛みこみは起きてしまいますので、その際には「エア抜き」作業をすることになります。
タービン油
油圧配管からエアを抜くためにはこの方法です。
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シリンダのエア抜き弁を緩めてエアを抜く
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配管を緩めたり外すことでエアを抜く
*エア抜きは同じ作業を何度も繰り返さないと抜けきらないことがあります。
注意ポイント
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エア抜きをすると作動油の量が少なくなるので油量も確認しつつ作業を行わないと作動油が少なくなって、さらにエアを噛んでしまうことがあります。
ワンポイント
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空気は時間の経過とともに高いところに上がってきますので、一晩おいて翌日にエア抜きすると抜けることがあります。
もしこのような方法でエア抜きをしても「抜けきらない」または「エアが噛んでいないのに動かない」「動作が不安定」などの場合は別の原因を考える必要があります。
エアハイドロシステムのポイントのまとめ
それでは、エアハイドロシステムについて重要なポイントをまとめておきます。
ポイント
- エアハイドロシステムとは、空気圧を油圧に変換して動力を得る制御方法
- 油圧に変換することで、「圧力増大」と「安定した制御」が可能となる
- 空気圧から油圧に変換するためには、エアハイドロコンバータ、エアハイドロブースター、エアハイドロユニットなどの機器が必要
- 作動油(タービン油VG32)の漏れ対策は、シールテープと液体ガスケット
- 油圧回路はエア抜きを行わないと、動かなかったり、動作が不安定になる。
以上5つのポイントです。
*エアハイドロシステムに使用する作動油はタービン油のVG32が基本となります。ご購入はこちらか
関連記事:【空気圧/油圧】
以上です。