今回は「PETや塩ビなどの樹脂カバーの静電気を除去する方法」についての記事です。
機械装置には安全のために樹脂カバーが使われていることが多いと思いますが、この樹脂カバーは高分子材料なのでフィルムを剥がしたり、ウエスで拭き取ったりと刺激を与えると静電気が発生します。静電気は日常生活でも「あるある」なことですが、この静電気を除去しようにもやり方が間違っているとさらに帯電してしまい非常に厄介です。
そこで今回の記事では、私が普段樹脂カバーの静電気を除去するために行っている方法をまとめておこうと思いいます。
記事の目次
PETや塩ビなどの樹脂カバーの静電気を除去する方法
樹脂やプラスチックは帯電しやすくゴミが付着する
静電気とは物体の「プラスの電荷」か「マイナスの電荷」のどちらかが多い状態のときに起きる現象で、プラスかマイナスのどちらかに片寄って帯電(電気が流れない状態)したままの電気現象を静電気と言います。
*帯電のしやすい材料は下記の表を参考にしてください。
出典:出典:Panasonic 静電気の特性
静電気の特徴をまとめるとこんな感じです。
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チリ、ほこり、ゴミが引き寄せられたり付着する
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手が触れた時に「バチッ」っと電気が流れる(感電する)
このような現象は皆さん経験したことがあると思いますが、機械装置の場合で考えてみますと電気が流れて感電するようなことはアース(接地)の配線が接続されていればまず起きることはありません。ところが、「チリ」「ほこり」「ゴミ」の付着に関しては特に「樹脂カバー」において問題になってしまうことがあります。
樹脂カバーの帯電の問題はコレ
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樹脂カバーが帯電しているとクリーンルームのような清浄度が重要な空間に持ち込むことができない
代表的な樹脂カバーには「PET(ポリエチレンテレフタレート)」「PVC(塩化ビニル樹脂)」「アクリル樹脂」「PC(ポリカーボネート)」がありますが、すべて高分子材料であるため電気絶縁性が高く帯電しやすい材料です。
そのため、樹脂カバーは「保護フィルムを剥がす」「ジグソーで追加工する」「ウエスで拭いてラップで梱包する」と言った機械組立では当たり前の作業を行っただけで帯電してしまい「チリ」「ほこり」「ゴミ」が付着してしまうのです。
そして、帯電してしまった樹脂カバーをクリーンルームに持ち込むようなことをすれば、クリーンルームに「チリ」「ほこり」「ゴミ」を持ち込むことと同じことになってしまうので、生産工場では大きな問題となります。
参考
*静電気と帯電についてはこちらの記事が参考になります
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イオナイザーの種類と除電方法【静電気と帯電の仕組みを解説】
続きを見る
*クリーンルームについてはこちらの記事が参考になります
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クリーンルームとは【クラスの規格とクリーン服の種類】
続きを見る
樹脂カバーの「チリ」「ほこり」「ゴミ」を除去する
一般的には樹脂カバーに付着した「チリ」「ほこり」「ゴミ」は除去するのが当たり前ですが、実はこの作業は簡単そうでかなり厄介です。
ついついウエスで拭いてしまう
厄介な理由はコレ
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ウエスで何回拭いても「チリ」「ほこり」「ゴミ」が除去できない
電気が流れない状態で拭き取り作業をして物体に刺激を与えるとさらに帯電して静電気が発生してしまうのです。(摩擦帯電と言う)
なので除去しようとしたらさらに付着してしまう、、、なんてことが起きてしまうんです。
静電気をアルコールと帯電防止スプレーで除去する
樹脂カバーをただ拭き取るだけでは「チリ」「ほこり」「ゴミ」は除去できないので、その根本原因である静電気を除去する方法を考えてみますと、いくつかの方法があります。
静電気を除去する方法はコレ
- エタノールで拭く
- パーツクリーナーで拭く
- クリーンルーム用洗浄剤で拭く
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帯電防止スプレー(帯電防止剤)で拭く
ポイントは「電気が流れやすい状態を作る(導電性の状態)」にすることです。
アルコールと帯電防止スプレーで静電気を除去する
アルコール
帯電防止スプレー
クリーンルーム専用洗浄剤
メリットとデメリット一覧
メリット | デメリット | |
エタノールで拭く | 乾燥しにくいので拭きやすい。多少の汚れも落ちる | 拭き痕がカバーについてしまう。濁りの発生リスクあり |
パーツクリーナーで拭く | スプレーなので作業性がよい。汚れも落ちる | 乾燥が早く、拭いている間に静電気が発生する。濁りの発生リスクあり |
クリーンルーム用洗浄剤で拭く | 静電気防止効果と洗浄効果がある。有機溶剤ではない | 拭き痕がカバーについてしまう。価格はエタノールの3倍 |
帯電防止スプレー(帯電防止剤)で拭く | 効果が長く感じられる、スプレーは作業性が良い | スプレーは禁止エリアでは使えない。高価 |
参考
ここで押さえておきポイントがあります。
アルコールやパーツクリーナーで樹脂を拭くと、白く濁る、脆くなる、クラックが入る、と言った問題が発生することがあります。
以前、エタノールを染み込ませたウエスと樹脂カバーに数十分密着させる実験をしたのですが、「PET(ポリエチレンテレフタレート)」「PVC(塩化ビニル樹脂)」「PC(ポリカーボネート)」は変化なし、でしたが「PMMA(アクリル樹脂)」は白く濁ったことがありました。なので、PMMA(アクリル樹脂)だけはエタノール使用禁止となり、水や有機溶剤ではないクリーンルーム専用の洗浄剤で拭くのが良いです。
また、PETの板にはほどほどの耐薬品性がありますが、PETボトルは性質が違うようでまったく耐薬品性がありません。なので、PETボトルでエタノールや有機溶剤を保管することはできません。
と言うことなのですが、私はこのように使い分けをしています。
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クリーンルーム以外では帯電防止スプレーで拭き取る
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クリーンルーム内(スプレー禁止)ではアルコールで拭き取る
- クリーンルーム内でアクリルを拭くときはクリーンルーム用洗浄剤を使う
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アルコールや帯電防止スプレーを持っていない時はパーツクリーナーを使って拭きる
このほか、ウエスにも注意が必要で「毛羽立ち」が目立つウエスは適していません。
毛羽立つウエスは拭き取っているそばから細かな毛が抜けて若干の静電気の力で樹脂カバーに付着してしまうのです。なので、クリーンルーム内での作業はもちろんのことクリーンルーム以外でも綺麗に拭き取りをしたときには低発塵の「クリーンウエス」を使用することをおすすめします。
帯電防止スプレーの効果
それでは実際に帯電防止スプレーを使用してPETカバーの静電気を除去してみたので、その違いを見比べてみてください。
帯電防止スプレーの効果
PETカバーが帯電して静電気が発生している。ちり、ほこりが付着している
帯電防止スプレーを吹きかけてウエスで拭いてみた。静電気が除去され、ちり、ほこりの付着が無い
静電気を除去する方法のポイントまとめ
それでは、静電気を除去する方法について重要なポイントをまとめておきます。
ポイント
- 静電気が発生するとチリ、ほこり、ゴミが引き寄せられたり付着する
- 高分子材料の「PET」「PVC」「アクリル」は帯電しやすく静電気が発生する
- 帯電した樹脂カバーはクリーンルームに持ち込むことはできない
- 静電気の除去には「アルコール」と「帯電防止スプレー」がおすすめ
以上4つのポイントです。参考にしてください。
*無水エタノールの購入はこちらから
*帯電防止スプレーの購入はこちらから
*クリーンウエスの購入はこちらから
関連記事:【フレーム/カバー】
以上です。