今回は「ローラチェーンの摩耗判断と交換方法」についての記事です。
チェーンを使用している機械装置は多く定期的に交換が必要になるので、取付けや交換の作業は組立や保全作業の基本となる作業です。ところが、チェーンはかみ合い伝動なので、摩耗していても、たるみが多くても少なくても、伝動できてしまうのでいい加減に調整をしてしまいがちです。そうなってしまうと、新品に交換しても早期摩耗したり、チェーンが切れたり、チェーンが巻き付いたり、などのトラブルが起きて機械装置は停止してしまいます。
そのようなことを起こさないために今回の記事では、ローラチェーンの摩耗判断、たるみ調整、給油、組付け方法などを紹介しようと思います。
記事の目次
ローラチェーンの伝動
チェーンとは鎖の事で、何かと噛み合わせたり引っ張ったりして伝動するモノです。
ローラチェーン
ローラチェーンとはスプロケットに噛み合わせる事を想定して、噛み合う部分が円滑になるようにローラーが組み込まれているチェーンです。
ローラチェーンの伝動の方法には下記のような方法があります。
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ローラチェーンをスプロケットに噛み合わせて動力を伝達させる
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ローラチェーンの端を引張って伝動する(吊り下げなど)
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レール状にローラチェーンを設置して、スプロケットがチェーン上を走行する
このような使用方法が一般的です。
引用抜粋:椿本チエイン ドライブチェーン&スプロケット 取扱説明書 P4
伝動させる為に必要な事
ローラチェーンの伝動で大切な事は下記の2点です
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チェーンのたるみ量
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給油
チェーンのたるみ量
効率よく伝動する為にはたるみは無い方が良いのですが、ローラチェーンの場合は適度なたるみ(遊び)が必要となります。
たるみが必要な理由
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潤滑油の油膜確保(構造部品に適度なすき間が必要)
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チェーンを張りすぎると構造部品が負荷と油膜切れで早期摩耗となる
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チェーンの屈曲具合やスプロケットの傾き精度などでチェーンテンションにムラがでるので誤差を吸収する
たるみが必要と言っても、たるみが多すぎてしまうと問題が起きてしまいますでの注意が必要です。
たるみが多いとこんなことが発生します
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応答性が悪い
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フリクションロス(摺動抵抗)
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騒音(ガチャガチャ音)
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スプロケットの巻き込みや歯飛びが発生(噛み合うタイミングが悪くなる/チェーンピッチとスプロケットの歯山のピッチが合わない)
給油
チェーンは構造を見れば分かりますが、多数の金属部品によって構成されています。チェーンが伝動する時には金属部品に負荷がかかったり噛み合いの摩擦が発生する事になりますので摩耗は避けられません。
この摩耗を緩和して長持ちさせるために給油が必要になります。また、給油はグリスでは内部まで浸透しないので潤滑油を塗布するようにしてください。
*椿本チェインの場合は梱包時に塗布されているようです。
引用抜粋:椿本チエイン ドライブチェーン&スプロケット 取扱説明書 P12
(中略)
2) ローラチェーンは、包装する前に塗油されています。(ス テンレスドライブチェーンを除く)この油は、防錆と潤滑 の効果がある高級油を使用しておりますので、運転初期に 起こりやすい摩耗を防ぎ、また潤滑油と親和して耐摩耗性 を確保します
補足 給油しなくても良い場合
チェーンは給油した方が長持ちさせられるのですが、給油をしなくても良い(給油してはいけない)場合があります。
給油をしなくても良い場合
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無給油チェーン
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搬送チェーン(ワークに油が付着してはいけない場合)
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粉塵や粉が降りかかる使用条件(油に付着して噛み込み摩耗する)
補足 チェーンの洗浄
汚れたチェーンや新品チェーンの防腐油などを洗浄する場合には灯油が基本です。
灯油は洗浄能力がありながら、金属やシールにダメージを与えないので最適です。
*シールとはシールチェーンの内部に油の保持目的で組み込まれているゴム製のシールの事です。
チェーンの摩耗判断
チェーンの摩耗はパット見た感じでは中々判断が付きにくく、たるみ量を調整すれば著しい摩耗が見受けられない限り使い続けられると思ってしまいます。
ここでは、チェーンのどこに注目して摩耗の判断をすれば良いか確認してみます。
摩耗判断
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チェーンの伸び量
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ローラーの損傷と回転
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プレートのクラックと摩耗
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ピンの回転(カシメの緩み)
この中でも、私の経験では「チェーンの伸び」と「ローラーの損傷」の事例が多くありますので、この2点に重点を置いて確認します。
チェーンの伸び量
チェーンが伸びるとスプロケットとピッチが合わなくなり歯飛びを起こしたり、「伸び=摩耗」なのでチェーンが切れてしまいます。
チェーンの伸び量判断は、新品の状態から1.5%伸びたら交換です。(椿本チェイン基準)
出典:椿本チエイン ドライブチェーン&スプロケット 取扱説明書
チェーンの伸びの測定には上記方法以外にも、「チェーン摩耗測定スケール」を使用する方法もあります。
私は使用したことがありませんが、お手軽に測定ができてよさそうです。
出典:椿本チエイン チェーン摩耗測定スケール
チェーンが伸びる原因
チェーンが伸びる原因はピンとブッシュの摩耗です。回転と負荷でピンとブッシュの両方とも摩耗してガタガタ(遊びが増える)になります。
引用抜粋:椿本チエイン ドライブチェーン&スプロケット 取扱説明書
ローラーの損傷と回転
ローラーはスプロケットと直接触れる部分なので摩耗しやすく、目視で確認し易い箇所です。
ローラーの摩耗判断
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ローラーが回転しない
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ローラーが凹んでいる
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ローラーにクラックが入っている
引用抜粋:椿本チエイン ドライブチェーン&スプロケット 取扱説明書
ローラーチェーンの交換方法
ローラーチェーンを交換するうえで、重要なことは下記の2点です。
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スプロケットの芯出し
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チェーンのたるみ量
スプロケットの芯出し
スプロケットの芯出しが出来ていないと、チェーンの噛み合いが悪い状態となるので脱線/異音/乗り上げ/偏摩耗が発生しますので注意しましょう。
*スプロケットの芯出し精度は椿本チエインを基準とします(大同工業株式会社も同じ基準です)
引用抜粋:椿本チエイン ドライブチェーン&スプロケット 取扱説明書
このような方法をメーカーは推奨していますが、実際には状況により「1)水平度」と「2)平行度」が調整や確認が出来ない場合があります。
そう言った場合には「3)スプロケットの同一平面」のみの調整で良いと思っています。
スプロケットが点当たりですき間がある場合はすき間が【軸間距離÷1000】におさまっていれば良いという判断です(これは推奨しているのではなく、仕方がない状況の話です)
イメージ図
たるみ量の調整方法
チェーンの張り具合はたるみ量で判断します。たるみ量はチェーンの下側で確認します。メーカーにより違いはありますが、3%~4%が適切とされています。【スパン長さ×0.03~0.04=たわみ量】です。
イメージ図
たわみ量の確認は手で軽く上下させた時の遊びがたるみ量となります。
新品を取付ける場合には馴染みによる初期伸びを考慮して、たるみ量を少なめで【スパン長さ×0.02~0.03=たわみ量】でも良いと思います。
イメージ図
参考
プラチェーンのたるみ量については下記の記事をご覧ください。
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プラスチックチェーンのたるみ量の考え方【コンベアのテンション調整と受けのレイアウト】
続きを見る
補足:スプロケット/プーリー芯だし測定器
スプロケットの芯出しについて解説していますが、面倒な芯出し作業を簡易的にするために椿本チエインから「イージーレーザー」と言う、スプロケットとプーリーの自動測定器がリリースされています。
引用抜粋:椿本チエイン イージーレーザー
つばきイージーレーザーなら、スプロケットにレーザーを照らすだけで、簡単に心ズレを確認・調整することができます。
私は使用したことがありませんが、直尺やストレートエッジなどの長物の測定器が不要ですし、一人作業が可能なので購入を検討しています。
ローラチェーンのポイントまとめ
それでは、ローラチェーンについて重要なポイントをまとめておきます。
ポイント
- ローラーチェーンは、たるみ と 給油 が大切
- 摩耗判断は、チェーンの伸び と ローラーの損傷 で判断するとわかりやすい
- ローラーチェーンを組付けるときは スプロケットの芯出し と チェーンのたるみ量調整 が必要
- スプロケットの芯出しは 【軸間距離÷1000】
- たるみ量は 【スパン長さ×0.03~0.04=たわみ量】
以上5つのポイントです。
チェーンは噛み合いの伝動なので、ベルトと違い噛み合っていれば伝動するので摩耗やたるみの判断を甘く見がちです。ですが、摩耗が行き過ぎれば切れてしまうし、たるみ過ぎれば破損やモーター過負荷で機械が停止してしまうかもしれません。日頃の点検と調整はもちろんの事、新規で組立てる時にはスプロケットの芯出しをしっかり行いましょう。
参考
*スプロケットの摩耗についてはこちらの記事をご覧ください
-
スプロケットが摩耗して起きること【交換基準は歯厚の摩耗限界】
続きを見る
*チェーンの長さ調整についてはこちらの記事をご覧ください
-
ローラチェーンを短くする方法【チェーンカッターとグラインダーでカット】
続きを見る
*チェーン摩耗測定スケールの購入はこちらから
*私のおすすめのチェーンカッターは片山チェンのカッターです
*チェーンの長さが短くてジョイントリンクが取り付けできない時にはチェーンプーラーがおすすめです。
関連記事:【回転運動の要素】
以上です。