この記事はAIで音声配信しています。
今回は、まだ機械装置メーカーに勤務していた頃に経験した、「失った信頼を、どうやって取り戻したのか」という出来事を、物語形式で紹介したいと思います。
機械装置のトラブルで失った信頼を取り戻した話し
絶対やってはいけない失敗
機械装置メーカーへ中途採用で入社してから、気が付けば12年が経っていた。
組立部門の課長という立場にも慣れ、現場をまとめることや、客先での立上げ対応にも、それなりの自信を持つようになっていたころだった。
その日、私はお得意様である従業員1000名を抱えるエンドユーザーの工場へ向かっていた。
目的は、2年前に私が組立てた全長12m幅6mの加工機(オーダーメイド)の年次メンテナンス。
毎年行っている定期作業で、内容も手順も頭に入っている。同行するのは部下2名。しかも2人とも私より年上で、現場経験も長いベテランだった。
今思えば、その「慣れ」が一番危険だったのかもしれない。
現場へ到着すると、いつも通りKTとTBMを行い、作業を開始した。
工場内には、停止した設備特有の静けさが流れている。
私は責任者として全体を見ながら、声をかけ、進捗を確認していたが、作業は特に問題もなく順調に進んでいった。
立会いには、エンドユーザー側から現場担当者と技術部門の役員の方が来ていた。
この2名の方とは、この時点では信頼関係ができおらず、お互いに少し距離感のある状態だった。
やがてメンテナンス作業は完了し、最後に試運転を行った。装置は問題なく動いているように見えた。
センサ反応も正常で、異常らしい異常もない。私は少し安心しながら工具を片付け、ハイエースへ積み込んだ。そして、そのまま帰路についた。
電話が鳴ったのは、その途中だった。
着信は、エンドユーザーの現場担当者からだった。画面を見た瞬間、嫌な予感が頭をよぎった。
電話に出ると、相手は少し困ったような声で言った。
「皆さんが帰ってから、もう一度試運転しているんですが、昇降シリンダのセンサドグが微妙に反応しないんです」
私は思わず表情をこわばらせた。
「よく見ると、ドグの位置がズレているみたいなんですが……。そもそも、この部分って狭くて工具が入らないですよね? どうやって増し締め確認したんですか?」
その言葉で、私は思い出した。その場所は、工具が入りづらい、奥まった狭い箇所だ。
私はすぐに、担当していた部下へ確認した。しかし返ってきたのは、「え……」という曖昧な反応だけだった。
その瞬間、血の気が引いた。
もしかすると、十分な増し締め確認ができていなかったのかもしれない。あるいは作業中に工具や体が接触し、ドグ位置をズラしてしまった可能性もある。
だが、本当の問題はそこではなかった。
責任者である私自身が、実際にどのような作業をしたのかを把握できていなかったことだ。
私は電話口で謝罪した。
「申し訳ありません。現時点では、どのような作業をしたのか明確にお答えできません。すぐに戻ります」
すると突然、電話の向こうから怒声が響いた。
「よく分からないなら、戻ってくるな!!!!」
技術部門の役員の方だった。
「何をどうしたのか聞いてるんだ!!!!!!」
携帯電話越しでも分かるほどの激しい怒りだった。車内の空気が一瞬で凍りつく。
私はこれまで、こんなに強くお客様に怒鳴られた経験がなかった。だが、怒られて当然だった。
試運転で問題が出ていなかったとしても、本当に確認できていたのか、作業内容を把握していたのか、自分自身の目で見ていたのか。そのどれもが不十分だった。
生産現場では、設備停止の影響は極めて大きい。ラインが止まれば、生産も止まり、納期にも影響する。私は立上げやトラブル対応を何度も経験してきたからこそ、その重さを理解していた。
だからこそ、「これは自分の責任だ」という思いしかなかった。
結局、その日は電話だけでは収拾がつかず、客先へ戻ることもできないまま帰社した。
翌日から、私は作業方法そのものを見直した。狭い場所でも確実に増し締め確認ができるよう、専用の特殊工具まで製作し、改善内容をまとめた報告書をエンドユーザーへ提出した。
しかし、返信はなかった。
失った信頼は、そんな簡単には戻らない。
そして、この出来事から6か月後、さらに大きなトラブルが発生することになる。