私がこれまで据付を行ってきた装置や機械、設備を振り返ると、据付作業を効率よく進めるためには、装置を出荷する前の準備がいかに重要であるかを痛感することばかりでした。
記事の目次
装置の据付は出荷前の準備次第です
装置の据付は最速でキッチリ復元
装置を組立てて試運転デバックを行い出荷した後、次に待っているのは客先での据付と立上げです。立上げ作業は精度や制御(ソフト)の確認/修正のために十分な時間を確保したいので、据付作業を可能な限り迅速かつ正確に行い、装置を出荷前の状態に復元する必要があります。
装置を迅速かつ正確に据付ける方法
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レベルシールを張っておく
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アジャストボルトは完全に縮めておく
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装置芯(一本線に矢印)を書いておく
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装置同士は連結部品と位置決めで固定する
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装置の流れ方向(フロー)と順番を書いておく
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取付部品や接続部品に合番テプラを張っておく
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リフトの爪位置と重心位置を表示しておく
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アジャストボルトは完全に縮めておく
上記は据付のために最低限必要なことであり、私の経験上、これが出来ていれば間違いなく迅速かつ正確に据付けることができます。*だだし、最終的な精度は機内の測定/調整を行った後に、流動確認を行い評価する必要があります。
それでは上記について、次項から解説していきます。
参考
据付とは、指定された場所に装置を設置することあり、装置が正しく稼働する状態に復元することです。具体的には、装置の位置調整、精度調整、部品や配線の接続、ユーティリティの接続などの作業が必要になります。
装置の立上げとは、装置が正しく稼働する状態であることを確認することや、正しく稼働するためにメカ調整やソフトデバックを行う作業です。
装置を迅速かつ正確に据付ける方法
レベルシールを張っておく
装置を設置場所の近くに置いたら、まず初めに行わなければならない作業がレベル調整です。*おおよそ±50mm以内の範囲に置く
レベル調整とは、装置の傾きと高さ(パスライン)を規定値に合わせる作業のことですが、この作業を迷わず最短で行うための方法があります。
レベル調整を迷わず最短で行う方法
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出荷前に装置にレベルシール(レベルの線)を張っておく
- レベルシールはテプラで作る
レベルシールのメリット
- 据付時に測定器を用いてレベルシールの高さを同一にすれば出荷前の傾きを再現できる
- 例えばパスラインから500mmの高さにレベルシールを張っておけば、傾きと高さ(パスライン)の調整が同時に可能
- レベルシールをテプラで貼っておけば据付後に剥がす必要がないので、将来装置を移設したりトラブった時に役立つ
レベルの記録
出荷前に装置にレベルシールを張る
レベルシールのイメージ
レベルシールは出荷前の装置の状態を、オートレベル/トランシット/レーザー墨出し器を用いて、任意の高さの水平線を記録しておくテプラのシールです。*養生テープに手書きの罫書き線でレベルを書く方法は、誤って剥がされることがあるのでお勧めしません。
このレベルシールを、装置のアジャストボルト(アジャスターパット)の真上当たりの柱やカバーのアルミフレームなどに張っておきます。
据付ける時は、オートレベル/トランシット/レーザー墨出し器などの水平が測定できる測定器で、レベルシールが一致するようにアジャストボルトやライナーを調整し、全てのレベルシールが同一の高さとすることで、装置を「出荷前の状態=稼働できる正しい状態」に復元することができます。さらに、レベルシールを張る高さをパスラインから任意の寸法に設定することで、傾きだけでなくパスラインの調整も可能となります。
注意したいこと
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機内の重要箇所のレベルの復元度合いは、別途測定して評価すること
装置が本当に正しい状態に復元できているか?それは、機内の状態を測定しなければ分かりません。
レベルシールに合わせても、その一つ一つの作業には誤差が生じるわけなので、±0.2mm程度の復元度合いだと思っておいてください。これは私の経験に基づく値です。そのため、最終的な微調整が必要になることがあるので、その点は覚えておいてください。
装置芯(縦一本線に矢印)を書いておく
装置のレベル調整ができたら、レーザー墨出器/下げ振り/差し金などを用いて床に墨打ちされているセンターラインに装置の芯を合わせます。
装置芯
装置の芯は図面に記載されているので、組立作業時に、または出荷前に装置フレームに書いておきます。装置芯の表記例は、「芯を縦一本線でマジックで書き、その一本線の上に矢印のテプラを張る」です。
もし、装置芯が書いていなければ、据付現場で装置芯を調べて測定して書く作業をおこなわなければならず、大きな時間のロスとなるので必ず書いておく必要があります。
装置に芯を書いておく
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出荷前に下げ振りやレーザー墨出し器を用いて装置フレームに縦一本線で書く
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分かりやすくするために、矢印のテプラをセンターラインの上に張っておく
注意したいこと
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装置のレベルが復元できていない状態で芯合わせを行っても意味がない
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芯はレベルによって位置が変化するので、レベル調整が完了した後におこなう
装置の芯について注意しておきたい事は、芯はレベルによって変化すると言うことです。詳しくは下記の記事でまとめています。
装置同士は連結部品と位置決めで固定する
装置が複数台あるラインモノの場合や、1装置が複数のブロックに分かれている場合は、装置の位置関係が重要になる為、据付に時間がかかります。
位置関係を再現するためには位置関係を測定する方法が確実ではありますが、短時間で位置関係を再現するために、装置のフレーム同士を連結部品と位置決めで固定する方法が有効です。
装置のフレーム同士の固定
固定方法の参考
装置のフレーム同士を固定する方法の例
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装置同士を連結部品でボルト固定する
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連結部品はテーパーピンなどの位置決めをする
出荷前の段階で、装置のフレーム同士を連結部品で固定し、連結部品はテーパーピンなどの位置決めによって再現性がある状態にしておけば、精密な測定をせずともX/Y/Zの3方向の位置を出荷前の状態に復元することができます。ただし、機内の復元度合いは、実際に測定しなければ評価できないので、据付が終わった後に別途測定し、必要であれば微調整を行う必要があります。
連結部品の注意点
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固定部品の強度が低いと復元度合いが低下する
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ざっくりイメージとして装置重量1.0t~1.5tであれば板厚8t以上、ボルト10mm以上、テーパーピン8mm以上
装置の復元度合いは連結部品の強度に依存するので、装置同士のレベルや位置に若干のズレが生じている場合に、多少強引にでも連結部品を取付ければズレが解消できる強度が必要です。
装置の流れ方向(フロー)と順番を書いておく
装置が複数台あるラインモノの場合や、1装置が複数のブロックに分かれている場合は、装置の順番を間違えるリスクがあり、順番を調べる時間が必要になるので、装置に流れ方向(フロー)と順番を表示しておきます。
装置の流れ方向と順番
流れ方向(フロー)と順番を表示する方法
- 出荷前に流れ方向の矢印と順番を梱包の上から、又は装置本体に表示する
- 表示は手書きよりもA4用紙に印刷して貼っておくと視認性が良い
- 大きく、見やすく、目立つように表示すること
- 装置の並び順の図も表示しておくと最高です
表示は、梱包の上からでも、装置本体に直接でも、どちらでも構いません。とにかく方向と順番が一瞬で認識できるように表示しておく事です。これにより据付がスピーディーになるし、装置の方向を間違えるようなミスを防ぐことが出ます。
さらに、出荷に余裕があれば、装置番号を装置の配置図(ラインのレイアウト図)に反映させた表示しておくと最高に分かりやすいです。
取付部品や接続部品に合番テプラを張っておく
装置の据付には、装置に付属するユニットや部品を取付ける作業も含まれますが、「どこに、何が、どのように取付くのか?」を図面で調べていたのでは時間がかかりすぎるので、出荷前に合番を張っておくようにします。
部品の合番テプラ
出荷前に合番テプラを部品に張っておく
ユニットや部品を取付けるために必要なこと
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出荷前に合番のテプラを張っておく
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合番が多い場合は組図に反映させておく
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合番を見れば組図を確認せずに取付けが出来るようにするのが理想
合番の注意点
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養生テープに合番を書くことはNG
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養生テープは誤って剥がされることがあるので、必ずテプラで貼ること
上記の方法で合番を張ることで、作業者全員が容易に理解できるので、据付作業お効率的に進めることができます。
リフトの爪位置と重心位置を表示しておく
装置の運搬は装置メーカー以外の人が行うことが多いので、「どこでリフトアップすれば良いのか?」「どこが重心なのか?」が一目で認識できるようにしておくと、装置を転倒破損させるリスクを低減させることができます。特に、バランスが悪い装置や強度が弱い装置は必須です。
リフトの爪位置と重心位置の表示
リフトの爪位置と重心位置の表示方法
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出荷時に実際に装置をリフトアップさせて確実な爪位置を確認して表示する
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爪の位置と重心位置は大きく表示する(A4用紙の半分の大きさ)
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爪位置は赤矢印、重心位置は白黒の専用記号を使って表示する
- 装置の梱包(ラップやシート)の上に表示する
表示方法は上記の通りですが、もし装置の下側に配線や突起がある場合は、「この下、配線注意!」や「下面に突起あり、リフト注意!」などの表示をしておくのもOKです。
万が一転倒や破損が発生した場合、据付立上げのスケジュールが遅れる可能性が高く、装置の保証問題にも発展しかねません。後悔しないように、事前に表示をしっかり行い、作業の安全性を確保しましょう。
アジャストボルトは完全に縮めておく
装置のアジャストボルト(アジャスターパット)は、装置を輸送や運搬したときに、曲がってしまったり折れてしまうことがあります。
アジャストボルトが曲がったり、折れてしまう原因
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トラックの荷台でアジャストボルトを引っかける
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搬入時(運搬時)にアジャストボルトを床や段差に引っ掛ける
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トラック輸送時にアジャストボルトにレバーやラッシングを引っ掛けて荷締めする
このようなトラブルが発生すると、現場でアジャストボルトを交換しなければなりませんが、交換するためには後日、装置を200mm前後ジャッキアップしなければなりません。
これにより、スケジュールが遅延するかもしれないし、そもそも交換作業は労災リスクが高いので避けた方が良いです。
アジャストボルトを縮めておく
対策
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出荷時に装置のアジャストボルトは完全に縮めておく
アジャスタボルトを損傷させないためには、アジャストボルトを完全に縮めておくしかないので、出荷時のトラックに荷積みするときには縮めておきましょう。
もし、荷台に装置を載せたときに、アジャストボルトを効かせないとバランスがとれない場合は、アジャストボルトを効かせるのではなく、装置フレームに盤木受けしてバランスをとり荷締めするようにしてください。
手配したトラックには、盤木が乗っていないこともあるので、トラックを手配するときに、盤木を持ってくるように依頼しておくのがベストです。
ポイントまとめ
それでは、装置を迅速かつ正確に据付ける方法についてまとめておきます。
ポイント
- 据付作業を可能な限り迅速かつ正確に行うためには、出荷前の準備が大切
- レベルのシール、装置芯の一本線、装置の連結と位置決め、装置の配置の表示、部品の合番、リフトの爪位置と重心位置、アジャストボルトを縮めておく、を行うこと
- 最終的な精度は機内の測定/調整を行った後に、流動確認を行い評価する必要がある
以上3つのポイントです。
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関連記事:【機械組立の心構えと基本】
以上です。