先日、鋳物に補強溶接する機会がありましたので、鋳物溶接に関する情報をまとめておきます。
鋳物溶接は専用の溶接棒を使ってピーニングをすること
鋳物の溶接は難しい
一般的には、鋳物に溶接することはリスクがあるので、敬遠されます。
例えば、鋳物に溶接すると強度が低下する、溶接しても溶け込みがうまくいかずビードから剥がれる、などと言った問題があるからです。
と言うことで、鋳物の溶接について調べてみました。
引用抜粋:日本溶接協会 Q&A
Q:鋳鉄の溶接が困難で,難しいといわれる主な点は何ですか。
A:
(1) 鋳鉄は図2に示すように溶融状態から急冷すると白銑化しやすくなる。白銑化すると熱膨張係数がねずみ鋳鉄に比べて著しく異なるため,溶接部と母材部の収縮に差ができ,大きな残留応力が発生し,さらに白銑は硬くもろいために割れが発生しやすくなる。
(2) 鋳鉄は多量のCを含んでおり,それが溶接中,酸素により酸化されCOガスとなり,溶接金属にブローホールやピットの原因となる。
(3) 鋳鉄そのものが,延性が少なく,かつもろい,さらに鋳造時の残留応力と溶接による残留応力とあいまって,肉厚の変化した部分や角などに集中して割れが発生しやすくなる。
(4) 溶接金属中に母材のC,SiおよびS,Pなどの有害な元素が溶け込み,溶接金属の硬度を高め,延性・靱性を阻害し割れが発生しやすくなる。
(5) 長時間高温に加熱された鋳鉄は,写真1に示すようにその黒鉛が粗大化し,黒鉛と基地に間隙が生じ,その付近に油や水がしみこんだりして,溶接時,なじみを害したり割れ,ブローホールなどの原因となる。
(6) 鋳鉄そのものに巣穴,ブローホール,砂かみなどの欠陥があると,溶着不良の原因となりやすい。
参考 ブローホールは、炭素の含有量が多いと発生しやすく、溶接時に発生したガスが金属内に封じ込まれて巣穴ができる現象で、強度低下になる。
では、主な注意点をまとめてみます
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溶接時に急冷すると脆くなる
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ブローホールが発生しやすい
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溶接した部分は部分的に硬くなり割れやすくなる
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そもそも鋳鉄は脆く、溶接による残留応力が加わると割れやすくなる
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鋳鉄そのものの品質が悪いと、溶接しても溶け込み不良が発生する
なるほど、鋳物の溶接はかなり難易度が高い作業だとわかりました。
しかし、現実には鋳物の溶接をしている人はいるし、実績があり不可能ではない作業です。
では、どうすればリスクを低減して強度を持たせた溶接ができるのでしょうか?
鋳物溶接の心得
鋳物の溶接方法を調べてみました。
引用抜粋:日本溶接協会 Q&A
Q:鋳鉄の溶接は非常に難しいと聞いているのですが,現場で鋳鉄の装置部品などが欠損した場合に緊急補修できる適正な溶接材料ならびに基本的な溶接施工法を教えて下さい。
A:
① 予熱は原則として必要ないが,適当な予熱は効果的で,一般的には100~150℃の予熱を行う。なお,ガス炎を用いて予熱を行う場合は,やわらかい炎でゆっくりとできるだけ幅広く予熱を行う。急激に強い炎で加熱すると,母材に思わぬ割れを発生することがあるので注意する。
② 純ニッケル系溶接棒を使用する場合の開先角度は70°~80°とし,鉄―ニッケル系溶接棒の場合は80°~90°にする。
③ 溶接電流は,溶接金属の母材への溶込みおよび熱影響部を極小にするために,できるだけ低電流を使用する。
④ 溶接棒の保持角度は進行方向に対し45°~60°に保持し,アークをできるだけ溶接金属上に出すようにする。
⑤ ビードはすべてストリンガービードとし,ウイビングは極力避ける。
⑥ 母材への過度の溶込みを防止するために,1回のビード長は50mm位にとどめ,各ビードごとにピーニングを確実に行う。
⑦ 鋳鉄の溶接の場合はピーニングは必須条件で,ピーニングは母材に傷をつけないように,ピーニングハンマーは尖端の丸いものまたは平たいものを使用し,ビードの真上からビードのリップルの半分は消える程度に叩く。
⑧ 飛石溶接法または対称溶接法を採用し,溶接部の局部的な過熱を防止する。
⑨ 溶接途中で,割れまたはポロシティを発生した場合は,その箇所を完全にはつり取り,改めて溶接を行う。
⑩ 亀裂補修の場合は,亀裂の始終端部に10f以上の割れ延長防止の孔をあけるとともに,開先面にバタリングを行う。
上記のように、日本溶接協会から鋳物の溶接について注意すべきことが公開されています。
また、親しくしている溶接屋さんにもこの件について聞いてみたところ「鋳物の溶接で重要なのは溶接棒だよ。専用の溶接棒を使わないと溶接不良になるよ」と言うことでした。
では、ここまでの情報をもとに、鋳物溶接の心得をまとめてみます。
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急冷しない
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低電流で溶接する
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時間をあけて溶接する
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溶接熟練工が作業する
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鋳物専用の溶接棒を使用する
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基本的に予熱は必要ない。予熱をおこなう場合は100~150度
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ピーニングをおこないビードを打ち延ばして残留応力を軽減する
参考 ピーニングとは、溶接ビードをハンマーで叩いくことです
このようなことを守り作業ができれば、鋳物であっても難しい作業ではないと言えます。
溶接棒について
鋳物の溶接は一般的な鋼材を溶接する溶接棒では接合することができませんので、専用の溶接棒が必要になります。
専用の溶接棒には、用途によって多数の鋳物用の溶接棒の種類があるので、実績がない鋳物溶接を行う場合は、必ず鋳物の成分(種類)や溶接の目的などの情報をまとめたうえで、溶接棒を選定するようにします。
例を挙げておくと、お世話になっている溶接屋さんは、普段行っている鋳物溶接には「ニッコーさんのDM150R」を使用しているとのことでした。この溶接棒はNI(ニッケル)の含有量が多く粘りが強い溶接棒で「ねずみ鋳鉄」「ダクタイル鋳鉄」「可鍛鋳鉄」などの鋳鉄の溶接に適合している冷間溶接用の溶接棒です。
引用抜粋:ニッコー熔材工業株式会社 DM150R カタログ
その他の溶接棒については、ニッコーさんのカタログで調べてみてください。
ポイントまとめ
それでは、鋳物溶接について重要なポイントをまとめておきます。
ポイント
- 鋳物を溶接すると、脆くなり硬くなり折れるリスクがある
- 鋳物溶接は、専用の溶接棒を使用して急冷せずに低電流で溶接すること
- 溶接したらビードにピーニングをすること
以上3つのポイントです。
参考
*今回紹介した鋳物専用の溶接棒の購入はこちららから
関連記事:【材料/溶接/加工/表面処理】
以上です。