機械や装置の安全性は、ISO14119の「機械類の安全性-ガードと共同するインターロック装置(注1)-設計及び選択のための原則」で規格されているため、それに準じて装置のインターロックを構成する必要があります。
記事の目次
装置の扉のセンサ/スイッチは無効化対策
扉のセンサ/スイッチの重要性
装置の可動部は非常に危険で、誤って接触するようなことがあれば、巻き込まれたり挟まれたりして、最悪は人命が奪われてしまいます。
このような事態を防ぐために、装置には自動運転中に作業者が機内に侵入できないように、カバーや柵などのガードで物理的に囲われているか、ライトカーテンなどのセーフィセンサで侵入者の監視しをおこなっています。
装置が囲われた構造には、センサやスイッチが取り付けられた扉(ドア)が設けられているのが一般的です。この仕組みを簡単にまとめると、自動運転中は扉をロックさせて開けることが出来ないようにしたり、万が一扉が開いた場合は装置が異常停止します。また、自動運転や手動操作を行う際には、扉を閉めていないと装置は起動/動作しません。このような仕組みをインターロック装置と呼びます。
参考
インターロック装置はJISで定義されています。
JIS B 9700 インターロック装置
- 特定の条件(一般的にはガードが閉じていない場合)の下で危険な機械機能の運転を防ぐことを目的とした機械装置,電気装置又はその他の装置
扉のセンサ/スイッチが無効化される理由
装置の扉のセンサ/スイッチは、前述の通り安全上欠かせないのですが、実際の製造現場では無効化されてしまうことがあります。*これを「扉のインターロック無効化」と言います。
扉のセンサ/スイッチを無効化する方法
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予備のアクチュエータ(センサの相手部品)をセンサ/スイッチに取付ける
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アクチュエータ(センサの相手部品)を装置側から外しセンサ/スイッチに取付けておく
無効化されてしまう理由
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チョコ停が多い
- 段替えの回数が多い
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メカ調整の頻度が多い
チョコ停や段替え、メカ調整を行う場合、装置を停止させて扉を開け「扉開異常」の警報を停止させてから作業をおこない、作業が終わったら原点復帰を行い自動運転させることになります。この一連の行為の頻度が多いと作業者は「イチイチ装置を止めて対処するのが面倒くさい」「原点復帰して自動運転するまでの時間が長すぎるから付き合ってられない」という感情を抱くことになり、扉のセンサを無効化して簡単に対処できるようにしてしまいます。
しかし、どのような理由があったとしても無効化はやめるべきなので、無効化できないように装置側で対処しておく必要があります。
扉のセンサ/スイッチの無効化対策の方法
製造現場では、安全や品質を無視してでも作業の効率を上げるために、不正が行われることがあります。「そこまでしてやるのか?」と驚くような不正行為が日常的に行われている工場もあり、時にはその不正のアイデアに逆に感心してしまうことさえあります。
そのため、扉のセンサ/スイッチの無効化を防止するためには、複数の無効化対策を講じ、作業者に「面倒くさすぎて不正ができない」と感じさせるようにする必要があります。
センサ/スイッチの無効化を防止する方法
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センサ/スイッチを「外せない」
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センサ/スイッチが「見えない」
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センサ/スイッチに「触れられない」
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アクチュエータをコード化しペアリングする
上記の方法は、アクチュエータ(センサの相手部品)を装置から外してセンサに取付ける、センサに予備のアクチュエータを取付ける、などの無効化に効果的です。
まず初めに、センサ/スイッチを外せないようにするために、専用工具が必要となるいたずら防止ボルト(特殊ねじ)で取付ける方法があります。いたずら防止ボルトの頭の形状には種類あり、例えば星形、梅形、三角形などがあるので、客先の仕様や組付け作業性、無効化対策の観点から選定します。*下記に鍋屋バイテック会社さんのいたずら防止ねじを載せておきます。その他、様々な形状があります。
出典:鍋屋バイテックか会社 いたずら防止ねじ
センサ/スイッチを見えないようにする方法は「カバーで覆う」「入り組んだ位置に取付ける」が有効で、センサ/スイッチに触れられないようにする方法は「手の届かない位置に取付ける」「見えていても触れないように金網で覆う」が有効な方法です。
そして最後に、アクチュエータをコード化しペアリングする方法ですが、この方法はセンサとアクチュエータをコード化によってペアリングすることで、異なるセンサやアクチュエータの組合せで使用できないようになります。これにより、予備のアクチュエータを取付けて無効化することはできません。*コード化の再設定の方法や再設定可能回数は種類によって異なります。
電磁ロックの欠点
私がこの業界に入った頃の日本向け装置とEU向け装置には、扉のドアセンサに明確な違いがありました。
EU向けのドアスイッチには電磁ロック、日本向けはマグネットスイッチやリミットスイッチが採用されていました。どちらのドアスイッチも、扉が開いている時は自動運転ができない、又は自動運転中に扉が開いたら異常停止、の制御でしたが、大きな違いがありました。電磁ロックは自動運転中にドアセンサとアクチュエータがロック(固定)され、扉を開けることが出来ません。ところが、マグネットスイッチやリミットスイッチはロック機構がないため、自動運転中に扉を開けることが出来ました。
この仕様の違いは、欧州と日本の考え方の違いではないかと思います。欧州の考え方は、作業者がミスをすることを前提に、ミスが発生しても労働災害が起きないように機械側で対策を講じるというものです。一方、日本の考え方は、作業者の教育を徹底すれば労働災害を防ぐことができるというものです。
とは言え、当時の電磁ロックには欠点がありました。電磁ロックに予備のキーを刺せば、扉が開いたままで装置を自動運転させることができたため、このような不正が横行していました。本来は、保全さんがメンテや調整で致し方なく行う行為ですが、チョコ停対応のために製造さんが行っていたのです。
現在、日本でもロック付きセンサを使うことが主流で、さらに不正ができないように、センサに特殊ボルトを使用して外せないようにしたり、センサをコード化してセンサとアクチュエータ(キーなど)のペアリングをするなどの対策がされています。
センサ/スイッチの種類とコード化
センサ/スイッチの種類
装置の扉に使用するセンサ/スイッチは、安全スイッチ、セーフィドアセンサ、セーフィドアスイッチなどと呼ばれ、キーエンス、オムロン、IDECなどから販売されています。
出典:キーエンス セーフティドアスイッチ / セーフティドアセンサ
出典:オムロン セーフティドアスイッチ
出典:IDEC 安全スイッチ
各社様々なタイプのセンサ/スイッチをラインナップしていますので、簡単にまとめておきます。
アクチュエータの形状には種類があります
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接触式 「キー(鍵)」「ピン」など
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非接触式 「マグネット」「RFIDタグ」など
アクチュエータのコード化について
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コード化ができるタイプとできないタイプがある
コード化はコードの桁数によってレベル分けされています
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低コード化 1〜9桁のコード化
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中コード化 10〜1000桁のコード化
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高コード化 1000桁超のコード化
*コードの桁数が多いほど無効化ができにくいとされる。実験したことがないので、コードの桁数の有効性の違いは分かりませんが、中コード化または高コード化で使用するのが無難だと思われます。
使用環境の注意点
- 非接触は粉塵などの異物の影響を受けにくい
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水、油、溶剤がかかる環境に対応している製品と、対応していない製品がある
参考
海外向け装置の場合、欧州の規格(CE)、米国の規格(UL)、を満たしているか?確認しておきましょう。
センサ/スイッチのコード化
センサ/スイッチとアクチュエータをペアリングするためには、アクチュエータをコード化する必要がありますが、コード化する作業はティーチングと呼ばれます。
例えばこんな方法
アクチュエータを遠ざけた状態でセンサ/スイッチの電源ON、LEDの色(点灯/点滅)を確認し10秒以内にアクチュエータを近づける。センサ/スイッチのLEDの色(点灯/点滅)が変わったら、センサ/アクチュエータの電源をOFFする。再度電源をONしコード化完了。
このようなティーチングの方法は、センサ/スイッチの種類によって異なるため、取扱説明書を熟読しておきましょう。
ティーチングの方法は取扱説明書で確認しておきます。
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センサ/スイッチの電源ONとOFFするタイミングは?
- センサ/スイッチ本体のLEDランプの色と、点灯/点滅の意味は?
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センサ/スイッチにアクチュエータを遠ざける、抜く、タイミングは?
- センサ/スイッチにアクチュエータを近づける、挿入する、タイミングは?
ティーチング(コード化)には回数制限がある場合があるので、取扱説明書で確認しておきます。
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無制限の製品
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一回のみの製品
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回数制限アリの製品
このような項目を確認しておけば、スムーズにティーチングが行えます。もし、ティーチングができない、コード化の回数を超えてしまった、の場合はメーカーに問い合わせてみてください。
ポイントまとめ
それでは、装置の扉のセンサ/スイッチについて重要なポイントをまとめておきます。
ポイント
- 扉のセンサ/スイッチは作業性重視の為、無効化されることがある
- 無効化対策の方法は「外せない」「見えない」「触れられない」「アクチュエータコード化」の4つを行うことです
- コード化の方法や注意点は種類によって違うので、取扱説明書で確認しておきましょう
以上4つのポイントです。
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関連記事:【センサ/電子機器 】
以上です。