機械を組立てる作業は、ボルトを締める作業と言っても過言ではありません。
そのため、組立をするならばボルトに関する知識と注意点を知っておく必要があります。
記事の目次
- 1 ボルトの重要性
- 2 組立て作業におけるボルトの取扱い知識と注意点
- 2.1 ボルトは折れる
- 2.2 ボルトの仮締めはしない
- 2.3 ボルトは締付けたらマーキング
- 2.4 ボルトは締める/緩める順番がある
- 2.5 異種金属を組合わせて使用しないこと
- 2.6 ねじ山のピッチには並目と細目がある
- 2.7 高温で使用する場合はかじり防止を塗布する
- 2.8 緩みやすいボルトは緩み止めを施工すること
- 2.9 ワッシャを入れる場合と入れない場合がある
- 2.10 ボルトの強度には種類があるので使い分ける
- 2.11 トルク法や回転角法で締め付けるボルトがある
- 2.12 ボルトが入りにくい時は雌ねじにタップを通す
- 2.13 なめたボルトやかじったボルトを除去する方法を身につける
- 2.14 ボルトは使う本数を小箱(小型コンテナ)に入れて組立作業をする
- 2.15 ボルトの掛かり代は1Dから1.5D、樹脂やアルミは1.5D以上を基本とする
- 3 ポイントまとめ
ボルトの重要性
機械とボルト
機械を構成する部品は、一般的にボルト(ねじ)で固定されていて、軸にねじ山が切られている雄ねじと、穴にねじ山が切られている雌ねじを回転させることで螺旋状のねじ山が噛み合い固定される仕組みになっています。
ボルトの特徴
- 取付けと分解が簡単
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強力に部品を固定できる
- 再使用可能(再使用不可のボルトもある)
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大きさ、ピッチ、材質、強度、長さ、頭の形状などの種類が豊富
このような特徴がある一方で、ボルトの取扱いに不備があるとトラブルが発生することがあります。
ボルトのトラブル
- ボルトが緩む
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ボルトを締め忘れる
- ボルトを締めすぎる
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ボルトが折れる、かじる
- ボルトの締める/緩める順番を間違える
ボルトが機械の性能に直接関係することはあまりありませんが、機械を構成している部品はボルトで固定されているため、間接的に機械の性能に影響を及ぼします。
機械を稼働させたらボルトが緩んで、何かしらの部品が破損することがあります。ボルトを締め忘れて部品が位置ズレしたり部品が外れてしまうことがあります。ボルトを締めすぎて、ボルトが折れたり部品が歪むことがあります。ボルトのねじ山に何らかの問題があり、ボルトが折れたり、かじることがあり部品を固定/取外しができないことがあります。ボルトの締める/緩める順番を間違えて、部品が歪んだり部品から気体や液体が漏れることがあります。
このようなボルトのトラブルは、機械の品質に影響を及ぼすため、ボルトの正しい知識と取扱いを身につける必要があります。
ボルトの知識と取扱い注意点
ボルトのトラブルを起こさせないために、機械組立の作業に必要な、ボルトの知識と取扱い注意点をまとめてみました。
取扱い知識と注意点
それでは、ボルトの取扱い知識と注意点について、次項から解説していきます。
組立て作業におけるボルトの取扱い知識と注意点
ボルトは折れる
機械を組立てていると、「ボルトが折れた!」なんて体験は誰もが一度はするものです。
ボルトが折れる現象
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締めすぎて折れる(オーバートルク)
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かじったボルトを締める/緩めるときに折れる
組立て作業中にボルトが折れる現象は、主に上記の2つです。
まず初めに、締めすぎて折れる(オーバートルク)について。
機械組立の作業においてボルトを締め付ける方法には、トルクレンチなどを使用した締付け管理を行う方法と、人の手の感覚で締め付ける方法の2種類があります。理想は締付け管理をおこなう方法ですが、現実的には難しい場合があります。なぜなら、機械1台に使用されるボルトの本数は数千本から数十万本であり、さらに様々なサイズが混在しているため、すべてのボルトをトルクレンチで締め付けるのは効率が悪いからです。そのため、人の手の感覚でボルトを締めることが当たり前に行われているのですが、その反面、ボルトを締めすぎて折ってしまうことがある訳です。
そもそもボルトが締めすぎで折れる過程についてですが、ボルトを締めるときにねじ山が伸びますが、その伸びには限界があるので、締めすぎると伸びの限界を超えてしまい折れるのです。そのため、手の感覚でボルトを締めるためにはボルトの適正な締付けトルク(力加減)とボルトが折れる限界を体感的に知っておく必要があります。方法としては、ボルトをトルクレンチで締め付けて感覚を覚える、ボルトを意図的に折って感覚を覚える、などの方法があり、最終的には人の感覚は完璧ではないので、「ボルトが折れるかもしれない」という前提のもとで、ボルトを締付けるしかありません。
次に、かじったボルトを締める/緩めるときに折れるについて。
ボルトを締めたり緩めたりする際に、ボルトのねじ山がかじってしまうことがあります。かじりとは、雄ねじと雌ねじのねじ山同士が一体化して、スムーズに回らなくなる現象です。この状態のままボルトを回すと、ボルトは折れてしまいます。かじりの原因には、ねじ山が摩擦によって発熱し溶着してかじる場合や、ねじ山に異物が入り込みねじ山を損傷させたり噛みこんでしまいかじることがあります。対策としては、溶着が懸念される状況ではグリスや潤滑剤を塗布し、異物混入が疑わしい場合は、新品ボルトを使用し雌ねじにはタップを通しておく方法があります。もしかじってしまったらねじ山に潤滑剤を塗布してねじ山の摩擦を低減してかじりを開放する方法しかありません。それでももし、かじりが開放されない場合は、あえてボルトを折って、折れたボルトを除去する方法を選択します。特に、ステンレスのボルトはかじり易いので要注意です。
参考
ボルトの仮締めはしない
機械組立の作業における、単純な組立てミスにボルトの締め忘れがあります。
ボルトの締め忘れは、ボルトが仮締めのままになっている状態なので、仮締めをおこなわない組立て作業をすることが重要になります。
詳しくは「ボルトの仮締めはおこなわないこと」の記事で紹介していますが、部品を複数取付けた後に精度調整をするのではなく、部品一点一点の精度を調整しながら組立てることで、ボルトを仮締めすることがなくなるし、仮に試運転で調整が必要な部分であっても、「部品を取付けたら例外なくボルトを締めつける。もし調整が必要ならボルトを緩めればいい」と言う考えを持つことができれば、ボルトの締め忘れは撲滅できます。
ボルトは締付けたらマーキング
ボルトは締付けたら終わり、、、ではなく、締付けたらボルトと部品にマジックやペイントで一本線のマーキングをしなければなりません。
もし、機械の組立て、調整が完了しているのにマーキングがされていないボルトを発見したら、増し締め確認をおこないマーキングをします。増し締め確認とは、ボルトやナットが適切な締付けトルクで固定されているかを再確認し、必要に応じて再度締め直す作業のことです。
ボルトのマーキング
マーキングの必要性
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ボルトの緩みを発見するため
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ボルトを緩めた痕跡が分かるため
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ボルトを増し締めしたことがわかるため
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ボルトを締付けたことを目視で確認できるため
マーキングをおこなう理由は上記の通りです。
ボルトを締付けた後にボルトと部品にマーキングすることで、ボルトの緩み、ボルトを緩めた痕跡、マーキング後に増し締めしたこと、ボルトが締まっている状態なのか、が一目で認識できます。
具体的には、ボルトのマーキングが緩め方向にズレているならボルトが緩んでいることが分かります。ボルト、座金(ワッシャー)、部品のマーキングの一つ一つに微妙にズレが生じていれば、マーキング後に緩めて、その後締付けたことが分かります。部品のマーキングに対してボルトのマーキングが締め方向にズレていれば、マーキング後にボルトを増し締めしたことが分かります。マーキングにズレが生じていなければ、ボルトは緩んでいないことが分かります。
このようなマーキングの効果は、機械を客先に納めるまでの品質管理と客先が維持管理をするために必要なことなので、ボルトを締付けたら必ずマーキングをするようにしてください。
ボルトは締める/緩める順番がある
機械組立ての作業において、ボルトの締める順番、ボルトの緩める順番、には注意が必要です。
締める、緩める、順番に注意が必要な理由
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部品が歪み平面精度が悪くなる
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調整中に部品の位置ズレが起きる
気密や密閉性が必要な部品や、取付ける部品の精度が他部品の精度に影響を及ぼす場合は、部品を取り付ける際に歪みが生じないようにしなければなりません。特に、部品の固定ボルトの締付け方法が悪いと部品の平面精度が悪くなるので注意が必要です。そのため、一般的には対角締めと呼ばれる締付け方法でボルトを締付けます。具体的には、部品の中心から外側へ数回(3~4回)に分けて規定トルクで均等に締付ける方法です。また、ボルトを緩める場合に、締付けの逆順番で緩めなければ部品に歪みが生じることがあるので緩める順番にも注意が必要です。
参考
ボルトを締める順番は下記の記事で詳しく解説しています。
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部品やフランジのボルトを締める順番【歪みと漏れの関係性】
続きを見る
部品の位置を調整するときはボルトを仮締めにして調整しますが、位置が確定した後にボルトを締付ける際に位置がズレてしまうことがあります。例えば4本固定の部品があったとしたら、一本のみ増し締めして、次にその他のボルトを締付けるような順番だとズレます。これは、締付けたボルトの回転力がボルトの座面から部品に伝わり部品が動いてしまうためです。それを防ぐためには、固定ボルトを均等に数回に分けてボルトを締める方法しかありません。この方法であれば、部品が少しずつ均等に固定されるので、部品がズレません。
以上のことから、部品の歪みと部品の位置ズレを起さないために、ボルトには締める順番と緩める順番があることを肝に銘じてください。
異種金属を組合わせて使用しないこと
機械に使用されるボルトと部品の材質は、鉄とステンレスが一般的ですが、チタン、アルミニウム、銅、樹脂系なども使用されることがあります。このような様々な材質を取り扱うためには、機械組立の作業において以下の点に注意する必要があります。
材質の注意点
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ボルトと部品は同種の金属であること
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異なる金属を組合わせると腐食することがある
上記の通り、異種金属を組合わせて使用すると腐食することがあるので、同種の金属を組合わせて使用することが基本となります。
このような現象を、異種金属接触腐食(ガルバニック腐食)と言い、電気が流れる水や湿気がある環境で、電位の異なる金属を接触させると電池が形成されるため、電位の低い金属が溶け出し腐食し、電子のやり取りが起きることです。例えば、鉄の部品同士をステンレスボルトで固定したら、鉄部品が腐食することがあります。
もし、異種金属の組合せで使用するのであれば、水が触れない環境や湿度が低い環境であること、または異種金属間に絶縁処理をすることが条件になります。この条件が守れないのであれば、設計側に材質変更を要請する必要がありますので、材質に気をつけながら組立作業をおこなってください。
参考
異種金属接触腐食については、下記の記事で解説しています。
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異種金属接触腐食やガルバニック腐食【イオン化傾向と金属の腐食】
続きを見る
ねじ山のピッチには並目と細目がある
ボルトには様々なサイズ(大きさ、太さ)がありますが、ねじ山にも種類があるので注意しましょう。
ボルトのねじ山の種類
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並目
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細目
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その他、多数あります
出典:OSG 技術情報 平行ねじ
普通、機械組立の作業で使用するボルトは、ISOやJISで規格化されている「メートルねじ」と呼ばれる規格のボルトです。メートルねじには、ねじ山のピッチに並目と細目の2種類があり、基本は並目を使用し、緩み対策のボルト、調整用のボルト、には細目が使用されることがあります。その他には、海外製の部品や、配管、継手、アダプターなどの接続部品には「インチねじ」が採用されていることが多いです。
ここで注意しておきたい事は、異なるねじ山ピッチの雄ねじと雌ねじを組合わせて使用することはできない、と言うことです。例えば、並目のM8のピッチ1.25のボルトを、細目のM8のピッチ1.0の雌ねじ(タップ穴)に入れることは物理的にできません。メートルねじとインチねじの組合せの場合は、ねじが途中で硬くなる、入るけど締めると空回りする、こともあります。
以上のことから、機械組立の作業ではメートルねじの並目を使うのが基本だが、それ以外のボルトを扱うことがあるので、ボルトをねじ込んだときに少しでも違和感を感じたらねじ山ピッチを疑うことはもちろんのこと、ボルトをねじ込む以前にピッチを確認することも必要になります。
因みに、ねじ山のピッチの判別方法は、ピッチゲージを使用する、タップのねじ山とボルトのねじ山の合わせる、ボルトとボルトのねじ山を合わせる、のいずれかの方法で判別ができます。
高温で使用する場合はかじり防止を塗布する
数百度の高温になる機械は、使用しているボルトに問題が発生することがあります。
ボルトが高温になると、、、
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ボルトがかじって取り外しができない
機械の熱源と接するボルトがかじってしまい外れないことは、よくあることです。
鉄のボルトは高温になると、酸化や腐食が促進するのでかじり易くなりますが、1度や2度高温にしたからと言ってかじったりしません。期間的には数か月から数年間高温で使用し続けるとかじり易くなります。ステンレスのボルトの場合は、高温で使用すると歪みが発生するのでかじり易く、1回の昇温でかじってしまうことがあります。
高温でボルトがかじらないためにできること
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フッ素スプレーを塗布しておく
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二硫化モリブデンを塗布しておく
- フッ素コーティングボルトを使用する
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銅配合の焼付き防止グリスを塗布しておく
熱源と接する部分を組立てる場合のかじり対策は、組立てる時にあらかじめねじ山にフッ素、モリブデンなどを塗布しておくことです。一番安価な方法は二硫化モリブデンをねじ山に塗布してから組立てることですが、高温部の温度領域、機械の使用環境、作業性、を考慮して最適な方法を検討してください。
また、注意すべき点として、これらの方法はねじ山の滑りが向上するのでボルトが締まりやすくなり、ボルトを折ってしまったり、また、減摩効果があるので機械を稼働させていくうちにボルトが緩んでしまうことがあるので、ボルトの締付け管理(トルクレンチなど)をおこない、それでも緩む場合はワイヤーロックなどのメカ的な緩み止めをおこなうようにしてください。
参考
ボルトのかじり対策の参考記事です
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焼付き防止剤とは【ねじやガスケットにおすすめ焼き付き防止剤】
続きを見る
緩みやすいボルトは緩み止めを施工すること
ボルトは適切に締付けをおこなっても、振動、衝撃、温度変化、陥没、などが影響して緩んでしまうことがあります。
ボルトが緩む部品
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回転部品
- 軟質の部品
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振動や衝撃が加わる部品
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ガスケットを使用する部品
- 温度変化(膨張/収縮)する部品
上記は代表的なボルトの緩みが発生する部品です。
回転部品にはスプロケット、歯車、プーリーなどがありますが、これらは振動の発生源であるとともに、回転部品の固定にはホーローセットが使用されることがあります。しかし、ホーローセットは軸力が低いため、容易に緩むことが多いです。
また、軟質の部品にボルトを締めると、ボルトの座がめり込んでしまい、時間の経過とともに軸力が失われて緩んでしまうことがあります。さらに、バイブレーター、ストッパー、軸受け、歯車などの振動や衝撃が発生する部品の影響を受けるボルトも、緩む可能性があります。
部品と部品の間に入っているガスケットがボルトを締めた後に、初期なじみや劣化などによって潰れてしまうと、固定しているボルトの軸力が失われるため、これも緩みの原因となります。加えて、100℃以上の温度変化がある部品に使用するボルトは、膨張と収縮によって軸力が失われ、緩むことがあります。
以上のように、回転部品や振動、衝撃、温度変化など、さまざまな要因がボルトの緩みの原因となるため、必要に応じて緩み止め対策が必要になります。
緩みやすいボルトの緩み止め対策
- ナットロック
- ダブルナット
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物理的な固定
- 緩み止めナット
- 緩み止めワッシャー
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接着剤(ロックタイト)
ボルトの緩み止めとして、代表的な上記の6つについて簡単にまとめておきます。
ナットロックは、調整ボルトやホーローセットのように、部品を挟み込んで固定するためではないボルトに有効な方法です。この方法は、あえて長めのボルトを使用し、そのボルトにナットを入れておき、その後ボルトを締付け、部品の表面に飛び出したねじ山部分でナットをロックする方法です。
ロックナット
ダブルナットは、ボルトナットで固定するボルトをナット2個で固定する緩み止め対策です。一般的には、下側ナットを締付けて部品を固定し、次に上側ナットを締付けます。その後上側ナットを工具で回転しないように固定した状態で、下側ナットを緩め方向に回転させてナット同士をロックします。この方法は、ボルトの緩み対策には有効ですが、下側ナットを緩め方向に回転させてロックするので、軸力が低下し部品を固定する力が低下する欠点があります。
物理的な固定とは、締付けたボルトやナットに割ピン(コッターピン)、スプリングピン、ワイヤーロックなどの部品を追加する方法です。割ピンやスプリングピンは、一般的にはボルトが緩まない対策ではなく、ボルトが緩んだときに若干緩んだ状態を保ち脱落を防ぐ目的の方法です。ワイヤーロックは、ステンレスワイヤーでボルトの締まり方向にテンションを与える方法であり、緩み止めに効果的ですが、正しい施工方法でなければ効果が得られないので注意が必要です。
緩み止めナットとは、ゆるみを生じにくくする機能があるナットのことで、セレーションナット、ナイロンナット、板ばねナット(Uナット)、ハードロックナットなど様々な種類があります。コスト、作業性、緩み止めの信頼性を考慮して使い分けます。
緩み止めワッシャーは、緩みを生じにくくする効果があるワッシャーのことで、ボルトの軸力を使用してクサビ効果を発生させるノルトロックワッシャーが有名です。
接着剤とは、通称ロックタイト(商品名)と呼ばれている、ねじ山同士を接着することで緩みにくくする接着剤です。ボルトの緩み止めの方法としては、一番安価で簡単に施工できる方法です。
以上の緩み止め対策には、それぞれにメリット、デメリットがあるため、どの方法が最適なのかをしっかり検討して使い分けるようにしてください。
参考
ワッシャを入れる場合と入れない場合がある
機械組立において、部品を固定するボルトには六角ボルトや六角穴付きボルト(キャップボルト)を使用し、カバー関係にはナベねじ、トラスねじが使用されますが、六角穴付きボルトの場合は、ボルトのみで使用する場合と、ボルトにワッシャー(座金)を入れて使用する場合があるので、使い分けに注意しなければなりません。
ボルトに使用される代表的なワッシャー
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平ワッシャー(平座金)
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スプリングワッシャー(ばね座金)
ボルトに使用される代表的なワッシャーには、平ワッシャーとスプリングワッシャーがあり、ボルト+スプリングワッシャー+平ワッシャーの組合せ、ボルト+スプリングワッシャーの組合せ、ボルト+平ワッシャーの組合せの3通りのパターンがあります。
ワッシャーを入れる、入れないの基準
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組立性
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設計上の理由
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客先の仕様書に記載がある
1点目の組立性ですが、組立て作業を容易にするためにワッシャーを入れる場合があります。例えば、位置決めがなく組付けながら部品の位置調整が必要になる場合には、ボルト+スプリングワッシャー+平ワッシャーを組合せて使用します。その理由は、部品を半固定するときにボルトを仮締めするが、スプリングワッシャーが入っていることによって仮締めのときに適度な力で部品を半固定できるので「良い感じ」に位置調整ができるからです。さらに、平ワッシャーが入っていることで、部品に傷が付かず、再調整に支障がないため、部品の位置調整が容易になります。
2点目の設計上の理由ですが、機内スペース、部品強度、その他様々な理由でワッシャーを使用する場合と使用しない場合があります。例えば、機内スペースを考えると、部品を小さく設計したいときにワッシャーを入れることを前提にするとワッシャーの大きさを考慮した部品サイズになりますが、ワッシャーを使用しなければ部品を小さく設計できます。また、部品強度を考えると、部品が軟質である場合、平ワッシャーを使用することで面圧を下げることができ、ボルトの陥没を防ぐことができます。
最後に、客先の仕様書にワッシャーに関する指示が記載されていれば、それに従ってワッシャーを使い分けることになります。もし、記載がなければ自分たちの判断でOKと言うことになります。
以上のように、ワッシャを入れる場合と入れない場合があるので、組立作業をおこなう前段階の打合せで、ワッシャー有無について確認するようにしましょう。
ボルトの強度には種類があるので使い分ける
ボルトの強度は規格化されているため、どんなボルトも同じでしょ、、、って感覚で機械組立の作業をおこなうことは大変危険です。例えば、強度区分を無視した組立て作業によって、組立時にボルトを折ってしまう、組立後に機械を稼働させたらボルトが破断する、などの重大な問題が発生するかもしれません。
鉄製のボルトの強度区分(呼び引張強さ)
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3.6(300N/mm²)
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4.6(300N/mm²)
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4.8(400N/mm²)
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5.6(500N/mm²)
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5.8(500N/mm²)
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6.8(600N/mm²)
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8.8(800N/mm²)
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9.8(900N/mm²)
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10.9(1000N/mm²)
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12.9(1200N/mm²)
鉄製のボルトの強度区分は上記の通りですが、一般的に機械の構造物に使用されるボルトは強度区分10.9、カバー関係のボルトには強度区分4.8が使用されることが多いです。
代表的なステンレスのボルト
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A2-70(SUS304の引張強さ700N/mm²)
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A4-70(SUS316の引張強さ700N/mm²)
ステンレス製ボルトはステンレスの種類別に強度区分が規格化されています。オーステナイト系ステンレスはA1、A2、A3、A4、A5の鋼種区別があり、さらにそれぞれに50/70/80の強度区分があります。マルテンサイト系ステンレスはC1、C3、C4の鋼種区別があり、C1の強度区分は50/70/110、C3の強度区分は80、C4の強度区分は50/70です。フェライト系のステンレスの鋼種区別はF1のみで、強度区分は45と60があります。この中でも、一般的に機械に使用されるボルトはA2-70(SUS304の引張強さ700N/mm²)であり、より耐腐食性が必要な場合はA4-70(SUS316の引張強さ700N/mm²)が使用されることが多いです。
以上のように、ボルトには材質の種類だけでなく強度の種類もあるので、取扱いには注意し、混在して使うことがないように、そして設計や客先からの指定を厳守して組立てを進めるようにしましょう。
トルク法や回転角法で締め付けるボルトがある
機械組立の作業において、ボルトの締付けを人の手の感覚でおこなっていることが多いのですが、高負荷部品、高圧部品、高温部品、動力伝達部品、高精度部品、安全に関わる部品はボルトの締付けを指定された方法で施工しなければならない事があります。
ボルトの締付ける方法
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トルク法・・・締付けトルクを締付け指標として締付け管理を行う方法
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回転角法・・・締付け回転角を締付け指標として締付け管理を行う方法
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トルクこう配法・・・締付け回転角に対する締付けトルクのこう配を締付け指標として締付け管理を行う方法
ボルトの締付け管理は、上記3つの方法がありますが、機械組立の作業ではトルクレンチを使用して締付けるトルク法が一般的です。
締付け管理が必要な場合
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設計側から締付け方法の指定がある場合
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購入品の取扱説明書に締付け方法の指定がある場合
- 社内組立てルールで締付け方法が決められている場合
締付け管理が必要な状況は様々あると思いますが、主に上記の3つです。
設計側から締付け方法の指定がある場合は、図面や指示書に記載があるか、設計者から直接指示があります。購入品の取扱説明書に締付け方法の指定がある場合は、取扱説明書を読まなければ気が付かないことなので、はじめて扱う購入部品は必ず取扱説明書に目を通すようにします。社内組立てルールで締付け方法が決められている場合は、ルールに従って締付け管理をすればいいだけですが、ついつい横着になって手抜き作業になることがあるので、定期的な指導と締付けの記録をおこないます。
以上のように、ボルトの締付けは手の感覚だけでなく、締付け管理をしなければならない場合があることを認識しておきましょう。
ボルトが入りにくい時は雌ねじにタップを通す
機械の部品を固定する方法は、ボルトとナットで部品を固定するのではなく、タップ加工(雌ねじ)された部品とドリル加工(通し穴)された部品を組合わせ、ボルトを通し穴の部品から入れ、雌ねじの部品にに締付けて2つの部品を固定する方法が一般的です。
よくあるトラブル
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雌ねじにボルトがスムーズに入らずかじる
この方法では、タップ加工された雌ねじに市販のボルトをねじ込むのですが、その際にボルトがかじってしまい、締めることも緩めることもできなくなったり、無理やりねじ込んでねじ山を潰してしまうことがあります。
ボルトがかじる原因
- 雌ねじにゴミが入っている
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ボルトのねじ山が潰れている
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雌ねじのねじ山が綺麗に立っていない
- 雌ねじの深さが浅い(貫通していない)
ボルトがかじる主な原因は、雌ねじにあります。例えば、雌ねじにキリ粉などのゴミが入っている、タップ加工の不良でねじ山が綺麗になっていない、又は、深さに問題がある、などです。それ以外には、ボルトのねじ山が潰れていることが原因の場合もあり、特にステンレスのボルトは微量の潰れでも簡単にかじってしまいます。
ボルトをねじ込んだ時に違和感を感じたら
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雌ねじにタップを通しなおす
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ボルトを新品に交換してみる
ボルトを雌ねじに入れたときに、引っかかる感じがする、重たくなった気がする、などの入りにくさを感じたら直ぐにボルトを雌ねじから外します。そして、まず初めにボルトのねじ山を目視確認し、潰れているようなら新品に交換するか、ねじヤスリで修正します。もしボルトに異常がなければ、雌ねじ側に問題があることになりますが、雌ねじのねじ山は目視確認ができないので、タップを通し直します。このような対処をすれば、ボルトをかじらせることなく締付けることができます。
なめたボルトやかじったボルトを除去する方法を身につける
もし、ボルトの頭がなめたり、ねじ山がかじってしまったら、、、どうすれば良いでしょうか。
いくらボルトの取扱いや締付けに注意を払っても、ボルトのトラブルを100%防ぐことはできません。人間はミスをするのでボルトの扱い方に不備があったり、ボルトや雌ねじの欠陥に気が付かなかったりすることで、ボルトがなめてしまったりかじってしまうことがあります。
ボルトがなめたり、かじったりしたら、、、
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ボルトを除去するしかない
ボルトを除去する方法は様々あるため、その場で最適な方法を選択してください。
ボルトの頭がなめた場合
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ボルトの頭を切断する
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タガネで緩め方向に叩いて外す
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特殊工具をボルトの頭に掛けて外す
ボルトの頭がなめた場合は、ねじ山がかじった状態と違い、一旦緩めることが出来れば容易に外すことが出来ます。そのため、ボルトの頭をグラインダーやレシプロソーなどで切断して軸力を開放する、タガネなどで頭を緩め方向に叩く、ボルトの頭になめたボルト専用の特殊工具をかけて緩める、といった方法でボルトを外します。
ボルトがかじった場合
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潤滑剤を塗布して除去する
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ボルトを切断するか折ってしまい、雌ねじに残ったボルトを除去する
ボルトがかじってしまった場合は、非常に厄介です。かじったボルト専用の潤滑剤を使用し、緩めることが出来ればいいのですが、もし潤滑油で緩めることが出来なければ、ボルトを切断するしかありません。そして、ねじ山に残ったボルトは、穴を開けてエキストラクターで外す、穴を開けてタップを通す、などの方法で除去します。この方法はやや難易度が高いため、実際にやってみて身につける必要があるので、上司や先輩に教えてもらったり、あえてねじをかじらせて除去する練習をしましょう。
詳しくは下記の記事で紹介しているので参考にしてください。
ボルトは使う本数を小箱(小型コンテナ)に入れて組立作業をする
機械組立ての作業では、鉄製とステンレス製の大小さまざまなボルトを使用するので、各種ボルトとワッシャーを区別して使用する工夫が必要です。
各種ボルトとワッシャーを区別する方法
- 必要な数量を種類別に小箱(小型コンテナ)に分ける
分ける目的
- 作業効率を上げるため
- 組立てミスを少なくするため
必要な数量を管理して組立をおこなうことで、ボルトが足りないとか余ったことによる工場内での無駄な行動がなくなり、ボルトの組付け忘れやボルトの紛失に気が付くことが出来るので、機械が完成したときの組立てミスが少なくなります。さらに、必要な数量を種類別に分けられていることで、必要なボルトとワッシャーが必要な時に必要な数量だけ手に取り組立ができるので、特に数モノ組立ての作業効率が上がります。
以上のように、必要な数量のボルト、ワッシャーを種類別に小箱に入れることで、組立てミスが少なくなり作業効率が上がるので、手で持ち運んでバラバラな状態で作業台に置くような行為はやめましょう。
ボルトの掛かり代は1Dから1.5D、樹脂やアルミは1.5D以上を基本とする
機械組立の作業をしていると、ボルトの長さはどれくらいがいいのか?と悩むことがありますが、ボルトの長さはボルトのねじ山と雌ねじの掛かり代で考えます。つまり、ねじ山の掛かり代を計算して決定し、ボルトの全長を決めるのです。
ねじ山の掛かり代
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鉄やステンレスは1.0Dから1.5D
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樹脂やアルミニウムは1.5D以上
*Dは使用するボルトの直径(mm)の意味
上記の根拠を詳しい計算を抜きにして説明すると、JIS規格の1種/2種ナットは約0.8Dの掛かり代があるため、0.8D以上の掛かり代があれば適切にボルトを締付けることが出来る、と解釈できます。ですが、組立て作業中にボルト直径×0.8を暗算するのは面倒なので、計算し易くて安パイな1Dを基準としています。ところが、部品の板厚はバラバラであり、一般的に流通しているボルトの長さが5mm単位なので、ピッタリ1Dの掛かり代があるボルトが在庫していることはありません。そのため、1.0D~1.5Dの範囲をもうけた掛かり代を基本にしています。また、樹脂やアルミニウムなどの軟質材に限っては、材料の強度が低いので締付けトルクに負けてねじ山がなめるリスクが高いため、1.5D以上の掛かり代とします。
ポイントまとめ
それでは、ボルトの知識と取扱い注意点について重要なポイントをまとめておきます。
ポイント
- 機械を構成している部品はボルトで固定されているため、間接的に機械の性能に影響を及ぼす
- ボルトは緩む、締め忘れる、締めすぎる、折れる/かじる、締める/緩める順番を間違えることがある
- 機械組立の作業は、ボルトの知識と取扱い注意点を理解したうえでおこなう必要があります
以上3つのポイントです。
*おすすめの六角レンチの購入はこちらから。本体が円形なので剛性感が良いです
*機械の精度の考え方を学ぶのにおすすめの本です
関連記事:【機械組立の心構えと基本】
以上です